松山英樹は取り残されるか 米ツアーは新次元の戦いに突入
もろ刃の剣
ならば、松山の飛距離はどのぐらいなのか。平均303・1ヤードはもっか41位。米ツアーの中では飛ぶほうでも、上位選手との差は大きい。3日目に松山と2サムで回ったルーク・ドナルド(42・英国)の今季スタッツは279・1ヤード(222位)。松山が7バーディーの65と爆発したその日は飛距離差のプレッシャーはなく、「上から目線」でプレーできたのではないか。
ゴルフライターの吉川英三郎氏が言う。
「コースのレイアウトにもよりますが、米ツアーは平均飛距離が310ヤード以上でなければ、常に優勝を争うことは厳しい時代に突入したといえます。現在米ツアーで平均飛距離が310ヤード以上の選手は13人。いわゆる飛ばし屋といわれる選手たちは、例えばパー4で右サイドから攻めるにはリスクが高い右ドッグレッグホールやホール右サイドにペナルティーエリアが続いていても、ドライバーで軽々と越えてしまう。それに同じラフにつかまるにしても、飛ばしたほうがウエッジなど短い番手でグリーンを狙えます。飛距離が劣る選手はラフから長い番手を手にしたらパーオンの確率も低くなります。ドライバーを飛ばしたら、次打はショートアイアンでピンを攻めることができるのですから、総距離の長い米ツアー会場での飛距離はやっぱり大きな武器です」
さらに吉川氏は続ける。
「松山選手は身長が181センチ、体重も90キロ以上あるでしょう。欧米選手に引けを取らない立派な体格をしている。それだけに、『デシャンボーのようにもっと体を大きくして飛ばしたい』と思っても不思議ではない。しかし、過去には米ツアーに参戦して飛距離を求め、スイング改造に失敗した日本選手も少なくない。13年から米国を主戦場にした石川遼もその一人。『ゴルフは柔らかい筋肉で飛ばす』という指導者もいる。松山がデシャンボーのような体になって310ヤード以上の飛距離を求めるのは、もろ刃の剣ともいえる」
松山の目標は日本人プロが成し遂げていないメジャー優勝だ。そのためにはあらゆる努力を惜しまないのだが、より飛ばしたいとなれば、それは体に大きな負担を強いることになる。飛ばすためにヘッドスピードアップに励むことで、過去に痛めた左手親指付け根が悲鳴を上げるかもしれない。そうでなくても肉体改造、スイング改造にはリスクがつきまとうものだ。17年8月のブリヂストン招待(米ツアー5勝目)を最後に優勝から遠ざかっている松山。デシャンボーの飛距離に圧倒された今後は、どんな選択をするだろうか。