私が現役時代、捕手をやっていた頃は、プロの打者をどう抑えればいいか、点を取られないことを考えるので精いっぱいだった。打席で集中できた記憶はない。チャンスの時だけは、なんとか食らいついたが、相手投手との対戦を楽しむ余裕はなかった。スコアボードを見ながら、いつも「どうしよう」と思い詰めていた。だから「打てる捕手」の価値が分かる。ヤクルト時代の同僚で2000安打をマークした古田敦也も凄かったが、慎之助が12年にマークした打率3割4分はありえない数字だ。
「リードってめちゃくちゃ迷わない?」
こう聞いたことがある。いつも自信に満ちあふれている慎之助の答えは、予期せぬものだった。