「首脳陣の声に一喜一憂するな 自分の目に自信を持て」
「あの高校生野手、ちょっと体が小さいんじゃないか? やたら貧弱に見えるけど……」
新人選手が合同自主トレをやっている最中のこと。彼らの動きを遠巻きに見ていた首脳陣のひとりが、隣のコーチにこう水を向けた。
「そういえば、そうですね。周りの連中がみな体が大きいせいもあるのかもしれないけど、確かに小さく見えますね」
横のコーチもうなずきながら相づちを打っている。そんなやりとりを耳にして、肩をすくめていたのがくだんの高校生野手の担当スカウトだ。
「オレにはバツが悪そうな顔をしてた担当スカウトの気持ちが痛いほど分かる」と、その光景を見ていた部長はオレにこう言った。
「担当に言わせると、あの高校生は体は小さくても、打撃に加えて足と肩がよく、ガッツもあるという。つまり体が小さいハンディをハネのけて余りあるものがあるからオレも評価したわけで、担当スカウトにすれば首脳陣にはそういったプラス要素をしっかり見てもらいたいんだ。体は小さいのにバネがあるとか、やたらと足が速いじゃないかとね。なのに自分でも分かっているマイナス要素を強調されると、だんだん自信がなくなってくる。そのうち担当スカウト自身も、改めてみると本当に小さい、ここまでとは思わなかった、本当に大丈夫か、なんて心配したりもするもんさ(笑い)」