登山家・野口健氏が警鐘「今の五輪強行ムードは登山なら完全に遭難するパターン」
日本は他国に比べ、のまれやすい国。それを逆手にとって「リスクを負ってでもやる意義が五輪にはこれだけある」と演説して盛り上げれば、流れは変わったかもしれません。
それをせず、何度も壊れたテープレコーダーのように「安全安心」と聞かされていると、僕の頭が悪くなってきたのかなと悩む。すごくバカにされている気がするし、不誠実。単に五輪に反対というより、五輪を押し進めようとする人への不信感なんですよね。
今のムードとして、「なんかヤバイ事になりそう、でも引くに引けない。もうやるしかないのか、じゃあやるか!」という状態。これは登山なら遭難する典型的なパターンです。冒険するとき、僕ら〝山屋〟は最悪の事態を想定する。万全の備えをするのと同時に、根拠がなくても「流れが悪いぞ」「ピンとこない」という時は一回引くんです。登山家はそれができるかできないか。自分の感覚で引けない人は大体、亡くなられています。
■引いたら負けという日本人の考え方
僕が20代前半の頃、登山家の大先輩が集会でこっそり指を差して「野口、アイツが次に遭難するぞ。その次はアイツ」と言うんです。それがほとんど当たる。要は遭難しやすいタイプとしにくいタイプがいるということ。難しい山を登る人は勇敢で恐怖に強いイメージを抱いていたけど、そういう人は命を落としやすい傾向にあります。