【江東区有明<2>】五輪施設の後利用を含め、会場エリアの変化をしっかりと見続けていく
江東区有明(2)
1964年の前回東京五輪では「東洋の魔女」と称された女子が金メダル、男子が銅メダルを獲ったバレーボール。「日本のお家芸」と言われて久しいが、東京五輪では期待の高かった女子が、まさかの1次リーグ敗退を喫した。
男子は1992年バルセロナ五輪以来の決勝ラウンド進出を果たしたものの、8月3日の準々決勝で世界ランク1位のブラジルに0-3で敗戦。男女揃って姿を消した。
その男子の大一番直前、会場の「有明アリーナ」周辺まで出向いて見ることにした。
全国27都道府県に熱中症警戒アラートが発令されたこの日。東京は朝から小雨模様だっが、午前11時頃の地下鉄・豊洲駅周辺には真夏の太陽がギラギラと照り付けていた。有明アリーナの最寄り駅は「ゆりかもめ」(東京臨海新交通臨海線)の「有明テニスの森」駅。そこから徒歩8分かかるうえ、良い角度から施設全景が撮れない。そこで頑張って豊洲駅から歩いて向かうことにした。
1980年代まで物流倉庫地帯だったこのエリアだが、1990年代半ばから再開発が進み、2006年にはゆりかもめが豊洲まで延伸。高層マンションや大型商業施設が続々とできるなど、新たな街が生まれた。その変貌ぶりを改めて噛み締めつつ、木遣り橋を渡ると真新しい「有明アリーナ」が一望できる。
ここが東京五輪のバレーボール、パラリンピックの車いすバスケット会場だ。
実はコロナ流行直前の2020年2月に行われた完成披露式典を筆者は取材している。総工費370億円を投じて整備されただけに、内部は素晴らしかった。
メインアリーナの面積はバレーボール4面、バスケットボール3面を取れる広さだ。収容観客数は計1万5000人。観客席自体は1万2000人だが、フロアに3000席の可動式イスを設置可能になっている。2階席角からもアリーナ全体をしっかり見渡せて臨場感もある。もし有観客開催だったら、来場者は大満足で帰ったのではないか。
コロナがなければ有明アリーナの評価も上がったはず
天井や壁面などに国産木材を使用し、和のテイストを出しているのも1つの特徴。トイレの分散配置やバリアフリー対応なども万全で、これだけのアリーナはそうそうない印象だ。
それだけに東京都も強気で当初、年間3億6000万円の黒字を見込んでいた。指定管理者には大手代理店の電通やサザンオールスターズなど所属の大手芸能事務所のアミューズ、NTTドコモらで構成される㈱東京有明アリーナが決定。国内外アーティストのコンサートやスポーツ大会開催で稼働率を上げる計画だったが、コロナ禍でその通りの運営ができるか、それは未知数だ。
今回の五輪含め、本当にコロナがなければ、有明アリーナは大盛況で、国際的評価も上がったはず。後利用に向けても誤算が生じたと言える。
そんなことを考えているうちに現場に到着すると、カメラを構えた複数の若い女性がバス待ちをしている。ちょうどブラジルと日本チームの競技場入り時間なのだ。
先にブラジルが入り、続いて日本のバスが到着。エース・石川祐希(ミラノ)の姿もうっすら見えた。「カッコイイ~」「写真撮れた~」と女性たちは喜んでいたが、こういう応援も選手には力強く感じられたのではないか。
結果的には8強敗退だが、日本は全セットで20点以上取っており、中垣内祐一監督のマネージメントが奏功したということ。現役時代に「ガイチ」の愛称で呼ばれた指揮官と善戦した選手の今後が楽しみになった。
有明ガーデンも客足はまばら
そこから住友不動産が開発・運営を手掛けた「有明ガーデン」へ。
ショッピングセンターには、イオンスタイルなどさまざまな店舗が入っている。だが、平日の昼間ということで客足はまばら。食品を扱う店のスタッフに聞くと「五輪期間になって特別に人が増えたということはないですね」と苦笑いする。
別店舗の店員は「2020年6月にショッピングセンターがオープンした時には「五輪の時はインバウンドの外国人客が大勢、来店されると考えていた」と言う。
だが、ふたを開けてみるとインバウンドはおろか、都内在住者さえも外出自粛が求められる中、気楽に買い物に訪れることは難しい。この五輪期間中に会場巡りをしている人もほんのわずか。彼らは大きな稼ぎ時を失ったのだ。
近隣には五輪を当て込んでホテルも複数できたが、今のところ宿泊しているのは大会関係者かメディア関係者くらい。五輪後が思いやられる。
ただ、豊洲同様、有明も五輪によって一気に開発が進んだエリアだ。
数年前までは買い物ひとつとっても不便な状況だったのだから、地域住民には恩恵もあったといえる。
この先、五輪会場エリアがどう変化していくのか。施設の後利用を含めて、しっかりと見続けていくべきだと感じた。