【江東区青海】一般の人たちは五輪から遠ざけられてしまうという現実を目の当たりに
江東区青海
日本勢の金メダルは4日時点で21。前回の1964年大会と2004年のアテネ大会の16を大きく上回っている。
4日には、新種目のスケートボード女子パークで四十住さくら(ベンヌ)と開心那(WHYDAH GROUP)が金、銀メダルを獲得して日本中を驚かせた。
同じ新種目・スポーツクライミングも3日から始まり、男子のエース・楢崎智亜(TEAM au)が男子複合予選2位と好発進。4日は女子複合予選が行われ、野中生萌(XFRAG)と野口啓代(TEAM au)が出場。それぞれ3、4位で決勝に進出した。
その舞台である「青海アーバンスポーツパーク」の周辺を歩いてみた。
それにしても、今年はどうしてこんなに暑いのか。8月突入後の猛暑は尋常ではない。スポーツクライミングが午後5時開始ということで少し遅めの時間に外に出たが、日中の日差しの強さと変わらない。これでは外国人選手がクレームをつけるのも止むを得ない……と妙に納得しつつ、「ゆりかもめ」(東京臨海新交通臨海線)の「東京ビックサイト駅」で下車。聖火台のある「夢の大橋」に立ち寄ってから現場に向かおうと考えた。
本来なら東京五輪の象徴的な場所として大賑わいだったはずの聖火台。だが、コロナ感染拡大によって大会組織委員会が「観覧自粛」を呼びかける事態となってしまった。近くで写真撮影をしようとすると「警官や警備員に注意される」と聞いていて、警戒心を抱きながら近寄ってみたが、この日の現場はそこまでピリピリ感はなかった。
もちろん「こちらは通路です」「立ち止まらないでください」というアナウンスは再三聞こえてきた。撮影自体は許され、夏休みの子供連れや若者のグループらが喜んでカメラに収まっていたが、こんな些細な楽しみさえも遠慮がちにしなければならないとは……本当にコロナが恨めしかった。
「出会い橋」からはボランティアと警察官がズラリ
そこから眩しい太陽の下を10分ほど歩き、目的地の「青海アーバンスポーツパーク」に到着すると、聖火台よりも物々しいムードが漂っている。
競技場が一望できる「出会い橋」からはボランティアと警察官がズラッと並び、「立ち止まらないで下さい」という言葉を耳が痛くなるほど繰り返す。同じ内容の日本語、英語、韓国語による大音量のアナウンスもひっきりなしに流れ、「そこまでしなければいけないのか」と正直、興ざめした。
4日の東京都の新規コロナ感染者は過去最高の4166人。全国で1万4182人と最多を更新したこともあり、組織委員会としてもコロナ感染防止対策により一層、奔走せざるを得なくなったのだろう。
「3日に楢崎選手が挑んだスピードの時点では、青海アーバンスポーツパークに一番近いところから見られたんです。でも人だかりができ始めてからボランティアが幕を張ろうとした。それがうまくいかず、今度は人を増やして注意喚起するようになったんです」
2日連続で現地を訪れた熱心なファンがそう話してくれたが、一般の人たちは競技からどんどん遠ざけられてしまうという現実があった。
「有明北橋」も警備が強化される
筆者が何度か訪れた競技会場を見渡せる「有明北橋」も、警備が強化されたと聞いた。目の前の施設は我々の東京都民の税金で整備されたものなのに何故そこまで排除されなければならないのか。
全てはコロナのせいなのだが、切なさを覚えずにはいられなかった。
コロナ禍の五輪という困難な環境下でも野口、野中両選手は躍動感あるクライミングを見せてくれた。
遠目から”生観戦”したのは、最初のスピードだけだが、壁を瞬時に駆け上っていく速さには度肝を抜かれた。
この時点で野中は5位、野口は7位。ボルダリングとリードの2種目は午後11時近くまで行われ、野中が3位、野口が4位で予選を通過。男女ともメダルを狙える位置につけたのは喜ばしい限りだ。
クライミングが日本の新たな得意種目になれば
実はコロナ流行直前の2020年2月、駒沢公園総合運動場で行われたボルダリングジャパンカップを一度だけ取材に行った。
その時は野中、野口を抑えて10代の伊藤ふたば(TEAM au)が優勝。今年の同大会でも野口、野中の2人は頂点に立てなかった。
それだけに本番を懸念していたが、スピードとリードを含めた総合力が非常に高いのだろう。クライミングが日本勢の新たな得意種目になれば、競争力は大いに増していく。この調子でメダルを取ってほしいものである。
その後、訪れたお台場名物の「自由の女神」と「五輪のモニュメント」を含めたベイエリアの夕景の何と美しいことか。
この辺りは、本来なら外国人観光客が大挙して訪れて賑やかな雰囲気を作り出し、もっともっと五輪も盛り上がったはず。
しかし、我々はコロナ禍の現実を真正面から受け止めてやっていくしかない……。
そんな悲しい思いが今一度、高まった。