フェンシング男子エペ団体「金」見延和靖<2>選手村のジムで起きた大逆転劇、包丁研ぎで無心になる
■毎日通った土産物屋で20万円
理髪店や写真スタジオなど、さまざまな施設がある中、毎日のように通い詰めた場所があった。
「お土産屋さんには毎日行っていました。フェンシングのキーホルダーやバッジも売っていたらしいんですが、いつも売り切れ。毎日入荷されるので、欲しくて通っていたんですけど、結局買えなかった。お店の方に『日本の方はネットで買えますよ』って言われたんですけど、ネットでも売り切れていて買えなかった。各所から五輪出場のお祝いをいただいていたので、そのお返しも兼ねて選手村内でしか買えない限定のTシャツはたくさん買いました。全部で20万円くらい使いましたね」
世界各国のアスリートが一堂に会する選手村。村内の選手共有トレーニングジムでは屈強な選手たちの迫力に押された。
「日本のフェンシング選手は体が大きくないので、ジムに来ている水球やバスケットボールの選手の大きさに圧倒されるんですよ。自分がトレーニングしていると『次、終わったらマシン貸してよ』と言ってきて、(威圧感を感じながらも)『もうちょっと待ってて』と返したり。その後、お世話になったジムの関係者の方に金メダルを見せに行く機会があったんです。すると、トレーニングしている屈強な選手たちが手を止めて、『すごい、ゴールドメダルだ』と。『写真撮ってください』と言ってくれた選手もいたし、遠目で写真を撮っている選手もいました。ちょっと前まで肩身の狭かったジムで逆転現象が起きて、そこには体が小さいからとか、日本人だからという偏見が一切なかった。これこそオリンピックの価値で、メダルは誰にとっても平等な価値だと思いました。オリンピックの一番いい面をそこで感じられた瞬間でした」
悲願の金メダルは今後の日本フェンシング界を変えるのか。 =つづく