“稀有な存在”中山雄太を最大限に有効活用すれば日本代表は強くなる
中山雄太(ズウォレ/24歳)
1月27日のカタールW杯最終予選・中国戦で伊東純也(ゲンク)の2点目をアシストした中山雄太(ズウォレ)。長友佑都(FC東京)批判がヒートアップする中、スタメン待望論も高まっている。
「これまで自分が出ていない時に出た選手はいろいろいましたけど、あそこまで落ち着いて見られる選手はいなかった」
代表132試合出場の35歳のレジェンドも、そう言って一目置くほどに24歳のレフティは株を上げている。天王山となる1日のサウジアラビア戦で中山は一体、どんな良質なプレーを見せてくれるのかーー。
■左利きの中山を長友の後継者に
2019年コパアメリカでA代表デビューを飾ったころの中山は、ボランチとしての起用がメインだった。その流れは東京五輪代表でも続いていたが、2020年10月のコートジボワール戦で左サイドバック(SB)に抜擢されたのが、彼の代表キャリアの分かれ道となった。
続く11月のメキシコ戦でも好パフォーマンスを披露したことから、森保監督の中で「左利きの中山を長友の後継者に育てるのがベストではないか」というアイデアがひらめいたのだろう。
その後、佐々木翔(広島)や小川諒也(FC東京)らも試されたが、東京五輪でも左SBとして5試合に先発した彼が「ポスト長友」と本格的に目されるようになる。 長友と内田篤人(JFAロールモデルコーチ)のバックアップ役を長らく担っていた酒井高徳(神戸)も「中山君は十分できる」と太鼓判を押した。期待は高まる中でW杯最終予選が2021年年9月に始まった。
■代表OBも「中山をスタメンに」
初戦・オマーン戦こそ長友がフル出場したものの、黒星発進したのを機に指揮官の采配が少しずつ変わり始める。
中国戦以降、終盤に中山を投入するのが、ひとつのパターンとなった。
11月のベトナム、オマーンとの2連戦では、後半17~18分という早いタイミングでスイッチする。 オマーン戦では、中山が入って三笘薫(サン・ジロワーズ)と良好なタテ関係を形成したことで左サイドからの攻撃のギアが一気にアップ。彼らの崩しから伊東の決勝弾が生まれ、中山先発への機運が高まった。
「序列はあるが、絶対ではない」と森保監督も発言。2022年W杯イヤーは世代交代が本格的に進みそうな雰囲気が漂った。
ふたを開けてみると先の中国戦も長友がスタメンだったが、冒頭に記した通り、投入直後の中山が伊東のダメ押し点をお膳立て。最終予選2戦連続でゴールに直結する大仕事をやってのけ、代表OBの城彰二氏や解説者の松木安太郎氏が「中山をスタメンで使うべき」という意見を表明。
このことも左SB論争に拍車をかける形になった。
1個のミスを気にするタイプ
「左サイドが停滞するのは僕の責任。自分が打開できれば批判もない。ただ、雄太みたいに若くていい選手が出てくるのは僕にとっても有難い。エネルギーが心底出てきますし、まだまだ成長できると思ってます」と長友は猛烈批判をしっかりと受け止めつつ、堂々と笑顔でこう言い切った。
かたや中山も「スタメンじゃないことに満足してないし、出たいのはサッカー選手として当たり前のこと」とファーストチョイスの座を熱望した。
資格は十分にある。ただしーー。彼の場合は真面目過ぎる分、ともすればナーバスになる傾向がある。
「僕の性格上、究極を言ったら10個のうち9個良くても、1個のミスをすごく気にするタイプ」と本人も伏し目がちに話していた。
この慎重過ぎるキャラクターを森保監督が見極め、重圧のかかる最終予選では百戦錬磨の長友を先発させ、後半途中から中山を投入するという采配を繰り返しているーーとも見受けられる。
■独特の間合いと的確なクロス
いずれにしても、中山が本当に日本の左SBのレギュラーを担おうと思うのなら、繊細さを克服しなければいけない。それが今回のサウジアラビア戦なのか、それとも3月の敵地・オーストラリア戦なのか。必要なのは「本人の覚悟」と「指揮官の勇気」だけと言ってもいいだろう。
2019年からオランダ1部で3年以上のキャリアを積み上げ、ボランチ、DF、SBの複数ポジションを柔軟にこなした。
左利きで独特の間合いと的確なクロスという武器を持つ中山という存在は、これまでの代表にも見当たらなかった人材である。この稀有な存在を最大限に有効活用してこそ、日本代表は強くなる。
代表の主軸左SBの座に14年間、君臨してきた長友に大いなる危機感を与える男が、いつ現状から抜け出すのか。今後の成り行きを興味深く見守りたい。