(3)史上初の40代Jリーグチェアマン誕生 野々村芳和氏の就任に期待すること
「安心・安全な地域があって、そして安寧な社会があって、初めて私たちはスポーツを楽しむことができます」
2月28日に行われたJリーグ理事会。チェアマンとしてラスト参加となった村井満氏は、激動の8年間に思いを馳せるともに、今後へ託す思いをメッセージに残した。
コロナ禍や自然災害、リーグの秋(開幕)春(閉幕)制への移行問題など、さまざまな困難に直面するJリーグの次の舵取りを託されるのは、15日に正式就任する野々村芳和新チェアマン。元Jリーガーとクラブ社長の両方を経験した貴重な人材だ。
■40代チェアマンの就任は史上初
「40年以上サッカーと一緒に生きてきて、いろんな立場に応じた気持ちを経験してきている。難しい決断をしないといけない中で、それぞれの時代に感じた思いを大切にしながら、よりよいサッカー界にしていけるように頑張りたい」と意欲を示す49歳の新リーダーにかかる期待は大きい。
1993年のJ発足時の川淵三郎氏(現日本サッカー協会相談役)に始まり、これまでの5人がチェアマンの要職を担ってきたが、40代の就任は史上初。
しかもサッカー王国・静岡県清水市(現静岡市)生まれ。清水東高ー慶応大を経て当時J1の市原、札幌でプレーするという輝かしい経歴を誇る新トップだけに「ピッチ内外から今後のJを引っ張っていける最適な人物」とJクラブ関係者の評判も上々だ。
高校と大学の先輩に当たる日本協会技術委員会の反町康治委員長も「『野々村さん』と言うべきか分からないけど高校、大学の後輩でもあるし、何回も食事に行ったりしている仲。よりコミュニケーションが取りやすくなる。Jの発展なしに日本サッカーの発展はない。両輪をより強めていきたい」と太鼓判を押す。
タイのメッシが絶大な経済効果をもたらした
森保一日本代表監督も「携帯番号は知らないですけど、会えばいつも話はしますよ」と笑顔を見せており、代表とJの関係も密になりそうだ。
野々村新チェアマンが卓越した経営手腕を発揮したのは、2013年1月~2022年1月まで在籍した札幌社長時代。就任時にJ2からの再出発を強いられ、同年のクラブ売上高は10億6900万円。強化費も約3億円しか捻出できなかった。
J1・福岡の川森敬史社長が「J1で恒常的に戦うには25億円規模の強化費が必要」と語っていたから、当時の札幌がいかに苦境に瀕していたかが分かるだろう。
そこで野々村氏はアジアに目を向け、低コストで戦力になり得る人材を探した。その筆頭が、タイ代表の主軸だったチャナティップ(現川崎)。2017年7月に加入した「タイのメッシ」は、重要戦力になると同時に絶大な経済効果をもたらした。
彼が入って最初の練習をタイでネット配信したところ、再生回数は300万回に到達。札幌市の人口200万より多くの人が見た計算になったという。
タイ語版SNS登録者も爆発的に増加。実際に札幌を訪れる観光客も急増し、最初の1年間は前年比1.5倍に。試合観戦者の増加にも繋がった。
となれば、グッズ販売や新規スポンサー獲得にも弾みが付く。結果的に2018年の売上高は29億8800万円、2019年は35億9900万円まで急上昇。コロナ禍の2020年は30億9600万円まで減ったものの、J1中位クラスの財政基盤を誇るクラブに躍進させたのは間違いない。
懸案事項である秋春制への移行
村井チェアマンも「コロナ禍の2020年開幕戦直後に野々村さんと話をしましたが、現状に対する洞察の深さと今後の展望に対する見識の高さを再認識した。彼らしい大改革を私は歓迎しますし、心から応援したい」と話したが、彼ならば長年の懸案事項である秋春制への移行もやってのけそうだ。
少子化やBリーグなど他のプロスポーツの成長でJを取り巻く環境も年々、厳しくなっているが、斬新な経営施策やビジョンも打ち出してくれるのではないか、という希望を抱かせてくれる。
彼のブレインとなる人材も若返った。ジャパネットたかたの創業者・高田明氏の長女でJ2・長崎前社長の高田春奈氏(44)らが常任理事となり、鹿島の小泉文明社長(41)、元日本代表の宮本恒靖氏(45)らが非常勤理事に名を連ねた。
村井チェアマン時代は原博実副理事長(63)、木村正明常務理事(54)ら年齢層が高めの幹部が多かったため、フレッシュな体制で物事が進みそうだ。
新生・Jリーグの船出を興味深く見守りたい。(つづく)