(4)“タイのメッシ”川崎に電撃移籍…海外との関係強化なしにJリーグの発展はあり得ない
2017年7月にJ1・札幌入りし、クラブに莫大な利益をもたらしたのが「タイのメッシ」と呼ばれるチャナティップだ。
彼が2022年1月、J1王者・川崎への移籍に踏み切ったことは、日本サッカー界に驚きを与えた。
「チャナティップ獲得に際し、川崎が札幌に支払った移籍金は5億円程度と思われます。が、それ以上の経済的メリットがあると言われ、タイでのクラブ認知度アップ、スポンサー拡大などポテンシャルは少なくない」と語るJクラブ経営者もいる。
発足30年目を迎えたJリーグにとって、アジアをはじめとした海外展開は、今後の成長の度合いを左右する重要ポイントと言える。
■東南アジア7カ国と協定締結
Jリーグがアジア戦略室(現アジア室)を設置したのは2012年1月。翌2月にタイ・プレミアリーグとのパートナーシップを締結した。
その直後には神戸がチョンブリ、セレッソ大阪がバンコク・グラスと提携。地上波での放送がスタートするなど着実な歩みを続けてきた。
10年が経過した今、東南アジア7カ国と協定を結び、双方向の関係構築が進んでいる。
「近未来の運営規模35億円達成」を大目標に掲げる湘南も、国際事業を重視するクラブのひとつ。
すでにカンボジアのボンケットFC、中国の武漢など東南アジア5カ国とのパートナーシップを締結。さらに国やクラブ数を増やし、収益化につなげていく構えだ。
「セレッソさんがメインスポンサーであるヤンマーとともにアジア戦略に乗り出し、バンコク・グラスとの提携によって人的・物的交流が進み、シンハビールがスポンサーについたように、海外クラブとの関係強化にはビジネスチャンスがあります」と、水谷尚人社長も自信をのぞかせる。
その湘南は、筆頭株主であるメルディア・グループの三栄建築設計と共同歩調を取り、いろいろな企画や新規事業を模索していくという。
Jリーグの放映権を海外に展開していく
たとえばベトナムやカンボジアのクラブ施設改修などの話が持ち上がれば、三栄建築設計にはメリットがあるし、リニューアルした施設を生かして現地スクール開催といった道も開ける。
スポンサーとのウイン・ウインの関係が生まれれば理想的だ。
コロナ禍の今は難しいが、スポンサーをつけた育成年代の国際大会実施も考えられる。
2020年初頭までは頻繁に行われていたプレシーズンのキャンプなども今夏以降に再開されれば、ますます人とカネの流れが加速していくはずだ。
Jリーグ支持層である高齢化、日本の少子化やサッカー人口減少などを踏まえると、各クラブが海外に目を向けるのは当然の成り行き。競技レベルの高いタイのみならず、ベトナムや香港、インドネシアなどの選手を獲得するクラブが出現しているのも、ビジネス面への期待の表れだろう。
Jリーグの放映権を海外に展開していくことも喫緊の課題である。
現状では全放映権料収入のうち、海外からの割合は約5%程度しかないというが、その比率を10%、20%といったレベルに引き上げられれば、新たな収入源として大きな意味を持つ。
■海外投資家からの資金流入が進む可能性
欧州主要リーグを見てみると英・プレミアリーグの海外割合は約50%、ドイツ・ブンデスリーガは約20%に達している。
その中でアジアの比率は非常に高い。実際、タイに行ってみるとプレミアやリーガ・エスパニョーラ人気は絶大で市民生活に溶け込んでいることがよく分かる。
そこにチャナティップ効果も相まって、Jリーグが浸透しつつあるのは歓迎すべきこと。とはいえ、タイだけでは大きな商売にならない。
ベトナムやインドネシア、インドといった競技レベル面でも、経済面でもポテンシャルのある市場への拡大を図っていくことが肝要なのだ。
3月1日からは、Jリーグの株式上場も解禁された。15%未満の株式が移る場合ならJリーグへの報告義務がなくなるということで、Jの経営に興味を持つ海外投資家からの資金流入が進む可能性も出てきた。
欧州では、アジア人オーナーのビッグクラブが少なからずあるが、いつかJもそういう時代が訪れるのかもしれない。
いずれにしても、海外との関係強化なしに、Jリーグのさらなる発展はあり得ない。各クラブの取り組みに注視していきたい。