(5)J2水戸は「若い才能を育てられるチーム」にクラブの独自色を見いだした
2022年Jリーグも依然としてコロナ禍の真っ只中。首都圏など「まん延防止重点措置」が出ている地域は、依然として観客数上限2万人での実施を余儀なくされている。
となれば、入場料収入は増えず、劇的な経営改善も難しい。今季も視界良好とは言い切れないのが実情だ。こうした中、大企業のサポートを受けられない地方の中小クラブは、独自色を出しながらの運営を考えていく必要がある。
東京から1時間半圏内にありながら、すぐ近くに常勝軍団・鹿島という巨大な存在があるJ2・水戸にスポットを当てた。
■ 独自色がないと生き残っていけない
2020年度の売上高が7億6200万円とJ2下位の運営規模にもかかわらず、2019年.7位、2020年.9位、2021年.10位とコンスタントに中位をキープしているのが水戸だ。
近年は前田大然(セルティック=2017年)、小川航基(横浜FC=2019年)など有望な若手が期限付き移籍を中心に赴き、日本代表まで上り詰めている。
2021年から今年にかけても平野祐一、松崎快が浦和に引き抜かれ、2024年パリ五輪世代の注目FW藤尾翔太(徳島)がブレイク。2016年リオデジャネイロ五輪代表コーチの秋葉忠宏監督、元Jリーガーの西村卓朗GMら強化を預かる面々の手腕は高く評価されている。
地域の役に立つことで存在意義も高まる
「Jクラブの格差が広がる中、数年後にJ1制覇を狙えるクラブは、川崎や横浜FM、神戸など資金力のある7~8クラブに限定されてくると見ています。地方の有力企業に支えられる中堅クラブはまだいいですが、我々のような責任企業のない地方の小クラブは、勝ち負けだけでは価値を認めてもらえない。何らかの独自色がないと生き残っていけないんです。そんな中、『若い才能を育てられるチーム』という特徴が生まれつつあるのは重要な点です。2021年度の売上高が、初の8億円超えになりそうなのも移籍金収入が大きい。選手教育を含め、これからも力を入れていくつもりです」と2020年7月から社長を務める小島耕氏は力を込める。
水戸としては、あと5年でJ2平均の15億円程度まで売上高を引き上げたい考え。そのためにも地元・茨城県に密着した営業施策を講じていくことが肝要だ。
その一例となるのが農業だ。練習場「アツマーレ」のある東茨城郡城里町に農地を借り、昨年からにんにく栽培をスタート。今年から販売に踏み切る計画だという。
「茨城県は、東京市場での野菜取扱額がナンバーワン。しかし大規模経営が多い北海道と違って家族経営の農家が多く、後継者不足は深刻な問題です。農産物のブランド化という部分にも課題が見受けられる。ブランディングを含めて効果的なやり方を見出せば、未来への希望も開けてくると思うんです。それを我々が一緒になって取り組めれば、地域の役に立てますし、存在意義も高まる。そういう活動に力を入れていきたいんです」と小島社長は目を輝かせる。
この「地域のために」という姿勢は、着実に成果を収めている。
水戸が昨年10月に実施した「グランドゴルフ大会」が、スポーツ人口の拡大に資する優れた取り組みとスポーツ庁に認められて「Sport in Life2021優秀賞(企業部門)」を受賞。3月1日に室伏広司長官から表彰を受けたのだ。
オリジナルな方向性を模索していく
「地方には高齢者、少子化、後継者不足、仕事や学習機会の少なさといったさまざまな困難があります。キャッシュレス決済ひとつ導入しようとしてもITリテラシーなどのハードルが高い。そういった地域ならではの課題を我々が一緒になってやっていくことで、現場の勝敗に関係なく必要とされるクラブ経営ができると信じています。そういった理念に共感してくれるスポンサーが増えれば、収入も自ずから増えていく。もちろん限界はあるでしょうけど、オリジナルな方向性を模索していきます」(小島社長)
Jリーグも、近年は「シャレン!」(社会連携)活動を強化。
J58クラブが農業・健康・医療・福祉・教育・防災・コロナ対策など多岐に渡る活動のうち、優れた取り組みを表彰する「シャレン!アウォーズ」も2020年から実施している。
ピッチ外での取り組みが、クラブの今後を大きく左右するものになっているのは間違いない。水戸の例もそうだが、各地域に合った斬新な取り組みが、クラブ経営を救うことになるはずだ。(つづく)