著者のコラム一覧
元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

関東1部・南葛SCが補強した元日本代表カルテットは「キャプテン翼」になれるのか?

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 スペインの至宝・イニエスタ(神戸)も熱烈なファンだったという人気漫画「キャプテン翼」。その原作者である高橋陽一氏が、代表を務める南葛SCが4月10日、関東1部リーグ(J1から数えて全国5部相当)ホーム開幕戦を迎える。

 今季初陣となった2日の東邦チタニウム戦は1-1のドロー。次戦・ジョイフル本田戦では勝利がほしいところだ。

「自分自身が1年間フル稼働し、チームをJFL(4部相当)に上げられれば一番いい」と今季加入の元日本代表DF今野泰幸(39)も語気を強める。彼を筆頭に稲本潤一(42)、伊野波雅彦(36)、関口訓充(36)ら日の丸経験者を大量に揃えた〈黄金集団〉は、果たして快進撃を見せられるのか。

■元日本代表の豪華カルテット

「キャプテン翼」の主人公・大空翼が所属した南葛SC。このチーム名を聞くだけでワクワクするファンは少なくない。元日本代表の松井大輔(YS横浜)も「子供の頃、シュートを1回ポストに当ててオーバーヘッドで当てるという翼君の技にトライして頭から落ちたことがある」と苦笑したほど。影響を受けた名選手は数えきれないだろう。

 現実の南葛SCは。1983年に東京都葛飾区に発足した常盤クラブが母体。2013年に高橋氏が後援会会長に就任したのと同時に現チーム名に変わり、Jリーグ参入に向けて本格的に動き始めた。

 2013年時点では東京都3部(全国9部相当)に属していたが、同2部.1部を経て2021年に念願の関東2部に昇格。1年で関東1部までこぎつけた。

「目標のJ3まであと2カテゴリー。何とか2年でそこまで辿り着きたい」と高橋氏も先月14日のキックオフカンファレンスで力強く宣言。今季は稲本、今野、伊野波、関口の元日本代表カルテットを獲得した。想像をはるかに超える豪華陣容で注目を集めているのだ。

■年間運営費は1億7000万円

 昨季までJ2磐田に在籍した今野は加入の経緯をこう語る。

「昨年末に磐田を退団した後、なかなかオファーが来なくて、どうしようと考えていたんです。そんな時、旧知の(南葛SCの)岩本義弘GMからオファーを受けた。拾ってもらえるならどこでもやりたいって思いでいたので、挑戦したいと決断しましたね」

 同じJ2仙台に在籍していた関口も「カテゴリーを落とすのは勇気がいりましたけど、必要とされているところでサッカーするのが一番。南葛さんは金額的にも頑張ってくれたし、すごく前向きな気持ちになれました」と笑顔で話していた。

 南葛の年間運営費は1億7000万円。関東1部では上位だが、やはりJFLやJ3に比べると小規模だ。昨季までは高橋氏がポケットマネーを投入する部分が大きかったが、今季は営業スタッフを20人に増員。セレッソ大阪で日本代表10番・南野拓実(リバプール)と同期だった元Jリーガー・秋山大地らは練習前の昼間、飛び込み営業などを行っているというから驚きだ。

 もう一つ、興味深いのは個人スポンサー制度の導入。選手個人が支援企業や支援者を募り、協賛金を得る仕組みで、関口は長年活躍した仙台の企業などが手厚いサポートをしてくれているという。

人工芝は体への負担が大きい

「今は13社からスポンサードを受けているんですが、日本エコライフさんやエス・ブイ・シーホールディングスさん、翔桜建設さんなど仙台の企業が中心ですね。個人スポンサーも13~14人ついてくれて本当にありがたい限り。自分は広告塔としてピッチ上で活躍するのはもちろん、SNSを通じた発信も積極的に取り組んでいきます」と彼は深い感謝の意を表した。

 このように金銭面ではJリーグ時代と大きく変わらない状況のようだが、プレー環境面は確実に厳しくなっている。練習は葛飾区の水元スポーツセンター公園など公共施設で夜間に行うのが通例。もちろん人工芝だ。

「今までずっと天然芝でやってきたので、足の裏が痛くなったり、体への負担が大きい。ボールも跳ねたりするんで、ダイレクトに流すだけでもミスをしてしまいがち。慣れるまでにはまだ時間がかかるのかな」と今野は難しさを口にする。

 日中練習して夜はしっかり休養を取るというサイクルもガラリと変わり、コンディション調整も難しくなった。

■JFL昇格は世界一厳しくて狭き門

「生活サイクルは激変しました。単身赴任になったんで自炊してますし、日中ゆっくりして夜練習に合わせるのが難しい。タテに速いサッカースタイルやゲーム感覚、真夏の試合など適応しなければいけないことは本当に沢山ある。それを乗り越えて1年でのJFL昇格を果たしたいです」と関口は目を輝かせた。

 JFLに上がるためには、まずリーグ制覇するか、全国社会人サッカー選手権大会で上位に入るのが必須。その上で全国地域サッカーチャンピオンズリーグという大会に出場して2位以内に入る必要がある。

「世界一厳しい」と岩本GMも語っていたが、本当に狭き門なのだ。

「みんなうまいし、他チームとのレベルの差はない。正直、甘くないなと思ってます。このまま終わりたくないし、絶対負けたくない。そういう気持ちで戦います」

 今野の飽くなき闘争心は、今シーズン後に最良の形で結実するのか。今後の戦いぶりを注視していきたい。

【連載】IT企業・国際戦略…Jリーグ30年目の現在地

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