優勝後の契約更改で押し問答に…金額を何度見せられてもしっかりした根拠はなかった
「ちょっと、どれくらいになるのか金額を出してみて」
リーグ優勝した1989年の契約更改。選手との交渉役だった当時の前田球団代表が、横にいる奥田球団部長にこう言った。
奥田部長は持っていた電卓をガチャガチャガチャとたたくと、「これくらいです」と言って、電卓が示す数字を前田代表と私に見せた。
それを見てまず一、十、百、千、万……と数えてケタを確認する。そして話し合いの中で、「もうちょっと何とかなりませんか」「いや、そこまではちょっと……」といった押し問答になる。
■万年筆を見せて「これをいくらで買いますかということ」
球団側は当然、二の矢、三の矢を用意しているはずで、「じゃ、何パーだったらどうなる?」と、前田代表が奥田部長に促す。すると再び、奥田部長が電卓をガチャガチャガチャとたたいて金額を提示する。電卓によるやりとりが何回かあって、それでも自分の要求を貫こうとすると、「それじゃ、アンタ、いったい、いくらだったら納得するんだね? アンタくらいの年俸になってくると、もう、何勝したとかじゃないんだ。これをいくらで買いますかって、そういうことなんだよ」と、前田代表は背広から取り出した自分の万年筆を私に見せながらこう続けた。