逮捕された高橋治之元理事には9億円 あぶり出される東京五輪招致の闇
「オリンピックは商業主義化した」とは、国際オリンピック委員会(IOC)批判の常套句だが、1984年ロサンゼルス五輪が民間資本だけで成功裏に終了し、しかも約500億円の黒字を出した。以降、IOCはそれまで神聖不可侵としてきたオリンピックシンボル(五輪)を売りに出すオリンピックマーケティングを本格的に展開。いくら商業主義批判が鳴り響こうが、一向に商業主義をやめようとしない。
なぜか? オリンピックが生き残り、選手が活躍する場を持続するためには確固たる財政基盤が必要であり、五輪の商業主義化は必然だったからである。80年モスクワ五輪が政治的圧力で不完全な五輪になって以来、政治からの独立のためにも民間資本での自立が肝心であった。
問題は商業主義化が五輪の理念を追求するための資財となっているかどうかであり、世界平和構築への火をともし続けているかどうかである。批判すべきはその点だ。そして、もしその商業主義が五輪の理念のためではなく、誰かの私腹を肥やすための手段とされていたら、そのことこそ天誅の的である。
■5億円の半分が手数料
17日の東京地検特捜部の高橋治之氏逮捕は、東京五輪2020組織委理事を務めた中で、大会サポーターとなったAOKIホールディングスから、五輪スポンサー選定に関して、5100万円の賄賂を受け取っていた受託収賄の容疑によるものだ。判決は先だが、既に彼の一連の行為はオリンピズムによって裁かれている。彼が私腹のために五輪に関わっていたのは火を見るよりも明らかだからだ。
以前から親交のあった青木拡憲AOKIホールディングス前会長に「7億5000万円を支払えば、公式スポンサーになれる」と打診したと側聞し、ピンときた。東京五輪のスポンサーシップ構造の最下層「スポンサー」は5億円が基準値であるから、残りは自らの手数料になる計算である。5億円の半分を手数料と見積もるのはこの世界では常識的だ。実際には、2億5000万円が電通の子会社に行き、そこから高橋氏の会社に2億3000万円が渡ったとされるが、2億3000万円というと、どこかで聞いた覚えがある。
思い浮かぶのは、東京五輪2020招致不正疑惑。2016年、アフリカ出身のIOC委員の票を獲得する工作に、ラミン・ディアク元IOC委員(国際陸連前会長)が関与していたことを英国の新聞が報じ、ディアクを別件で捜査中のフランス司法当局の調べで、東京五輪2020招致の買収疑惑に及んだ。
結果、東京五輪招致委は、ディアクの子息が関与した「ブラック・タイディングス社」の口座にコンサルタント料として200万ドル相当額を送金したことを明らかにした。この200万ドル、当時のレートで約2億3000万円になる。
招致当時、招致委の理事長だった日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和前会長に同社を紹介したのが他ならぬ高橋治之氏であった。ブラック社の代表は電通の系列会社の関係者だったとされるから闇は深く、当時、高橋氏は招致委から820万ドル(約9億円)を受け取っていたことも明らかになっている。JOC会長就任時に後ろ盾となってくれた幼稚舎から慶応大学に至る大先輩に逆らえるはずがなかった。「アフリカの票のため」と言われればなおさらである。