日大の病巣を「ルポ大学崩壊」の著者が抉る「スポーツ優遇の無法地帯にメスを入れない限り…」
競技スポーツ部が今の形である限り、同じ問題が他の運動部で起こっても不思議はない
──タックル事件後は、それまでの「保健体育審議会」が廃止され、競技スポーツ部が新設されましたが……。
「中の職員はそのまま保健体育審議会から移っただけだったので、何も変わらなかった。今回もそうなるのでは? という懸念もゼロではありません」
──1日に麻薬取締法違反の罪で起訴されたアメフト部員の初公判がありましたが、「澤田康広副学長がもみ消してくれると思った」と証言していました。
「いかにアメフト部が無法地帯になっていたか、特権意識を強く持っていたか、ということです。そもそも、これまでの薬物事件関連の会見にアメフト部の指導者たちが出席していないのは明らかにおかしい。しかし、日大で優遇されているのはアメフト部だけではありません。仮にアメフト部を廃部にしたところで、競技スポーツ部が今の形である限り、同じ問題が他の運動部で起こっても不思議はありません」
──法廷では大麻使用に「10人くらいが関わっている」との証言もありました。
「一番かわいそうなのは事件と無関係な学生・教員です。4日の会見では、学生が記者を務める日大新聞が林理事長に厳しい意見をぶつけていました。日大新聞は大学の本部直轄。田中元理事長時代は、タックル事件や、不正の温床といわれていた事業部などについて、一切記事を書いていませんでした。書けるような空気ではなかったのでしょう。それが9月29日の論説で『聖域なき改革断行の覚悟を』と、不祥事を断ち切れない学校側を糾弾して以降は声を上げるようになった」
──林理事長は本当に何も改革をしていないのですか?
「事業部を解体するなど、経営面での改革は進んでいますが、田中元理事長の権力の基盤だった競技スポーツ部に手を入れてこなかったのは事実です。本来は経営面の改革と同時に、こちらも手をつけるべきでした」
──アメフト部の廃部についてはどうですか? 反対意見も少なくありませんが……。
「関西学院大学アメフト部の前監督や同大学OBは反対していますが、日大と同じ関東学生リーグからは、そのような声は一切聞こえてきません。ただ、廃部するにせよ、まずは指導者たちの処分、競技スポーツ部のあり方を見直すことが先です。アメフト部だけ真っ先に廃部にし、彼らだけに責任を押し付けることはあってはいけません」
──近年では早大相撲部や朝日大ラグビー部の大麻事件など、他の大学でも大麻問題が起きています。
「大麻に限らず、さまざまな大学で運動部員が問題を起こすケースはあります。それこそ入試から単位、授業の出席面でも運動部員を優遇している大学は珍しくない。担当教員が単位を『不可』にしたのに、知らないうちに『可』になっていた、なんてザラです。スポーツで優秀な成績を残していれば、何をしても許されるのか。少子化とはいえ、過度なスポーツ優遇は正しいのか。日大は系列高校なども含めれば、学生11万人を抱える巨大組織です。だからこそ、日大が率先して大学スポーツのあり方を見直すことが重要なのです」
(聞き手=阿川大/日刊ゲンダイ)
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▽田中圭太郎(たなか・けいたろう) 1973年、大分県出身。大分放送を経て、2016年に独立。雇用やガバナンスに代表される大学の諸問題、スポーツなどを取材し、雑誌やネットメディアなどで執筆。著書に「ルポ大学崩壊」「パラリンピックと日本 知られざる60年史」。