羽生結弦「30歳の挑戦」…プロ転向から2年半「毎回五輪での記録を更新する気持ちでやっています」【独占インタビュー】

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どんどん大きくなっていった「羽生結弦像」に苦悩することも

 ──プロに転向して精神面での変化はいかがでしょうか。

「これが、やっている自分としては、あまり変わらなかったな、というのが割と正直な気持ちなんです。例えば今回のショーでも、競技時代のほぼフル構成のプログラムを絶対に入れると決めている。しかも、ただ1回やればよかった競技時代から、今は表現としても競技としても『勝てるプログラムをやらなくてはいけない』と自分に課している。だから“対相手”じゃなくなった、点数が出なくなったからとかはあまり関係ない。ただひたすら、このプログラムを完璧にこなすためにどれだけ練習して、どれだけのトレーニングをしなきゃいけないんだ、という難しさと達成できた時の喜びが今はある。そして、みんなで(ショーを)作り上げているからこそ、僕だけに全てがのしかかるプレッシャーと常に戦いながら滑っているので、毎回オリンピックでの記録を更新する気持ちでやっています」

 ──競技者時代、結果を出せば出すほど「羽生結弦」という存在がどんどん大きくなった。世間の「羽生結弦像」みたいなものに違和感を覚えたことはありますか。

「そうですね、それはやっぱり間違いなくありますね。僕は幼い頃に五輪を観て、この試合で優勝できればみんな喜んでくれるんだ、この試合で優勝した人が一番かっこいいんだと思って、そこに夢を持って突き進んでいったわけですけど、こういう注目のされ方をするとは思っていなかった。息ができなくなるような時も間違いなくありました。例えば、自分が会場に入ってアップをしてリンクに乗ると、アップのような準備段階からカメラに追われ続けて、何もかも一挙手一投足を全部見られる、という風になるとは、正直、小さい頃の自分は思いもしなかった。息苦しさを感じる時はあるけど、それを楽しみにしてくださってる方もいらっしゃる」

 ──すべてを見られているという感覚ですか。

「ずっとすべてのファインダーがこちらに向けられ、シャッターを切られ続ける。それはやっぱりプレッシャーでしかなかった。練習中もほぼずっと、自分の方にだけ周りの顔がついてくるみたいな感覚があって、怖くなったりはしました。でも、その数は期待の表れでもある。その期待に応えなきゃ、と思いながら頑張れるようにはなってきたつもりです」

 ──そう思えるようになったのはいつ頃ですか。

「(18年の)平昌後、『もう見ないで』と思った時期ももちろんあったんですけど、徐々にですかね。腹が据わってきたという感じがします」

 ──ショーでは、プロジェクションマッピングなどテクノロジーを積極的に取り入れ、類を見ない世界観をつくり上げている。一方で、芸術の分野がAIなどに脅かされるという懸念もあります。

「確かにショーでは、最先端なことをやっている自負があります。アート×スポーツを表現しようと頑張っていますが、スポーツでしか味わえない感動、例えば高校野球の甲子園でがむしゃらに頑張る選手たちを見て、自然と涙が出てきたり、ワクワク感を持ちますが、彼らは感動させようとしてやっているわけではない。一方でショーで表現するアートの世界はつくり上げたものだからこそ感じる神聖さや感動がある。共存できると信じてこれからも頑張ります」

(聞き手=中西悠子/日刊ゲンダイ

▽羽生結弦(はにゅう・ゆづる) 1994年12月7日、宮城県仙台市出身。4歳のときスケートを始める。14年ソチ五輪で金メダルを獲得すると、18年平昌五輪で連覇を達成。22年北京五輪では五輪で4回転アクセルに挑戦し、転倒したものの、国際大会で初めて「4A」と認定された。同年7月にプロ転向を発表。これまで数々の全国ツアーを実施し、現在は「Yuzuru Hanyu ICE STORY 3rd Echos of Life TOUR」を開催中。25年は広島、千葉で公演予定。

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