オリンピックを題材とした「独走」を上梓 堂場瞬一氏に聞く
「刑事・鳴沢了」シリーズなど多くの警察小説を手掛ける堂場瞬一氏だが、執筆活動のもうひとつの軸となっているのがスポーツ小説。野球や陸上競技、ラグビーなどを題材とした多数の作品を描いてきた。今回刊行された「独走」(実業之日本社 1500円)では、オリンピックを目指すアスリートたちが主人公となっている。ただし、彼らの爽やかな成長物語、といった類いの話ではない。現代スポーツ界が抱える複雑な問題を斬る、スポーツ・エンタメ小説なのだ。
2020年、東京でオリンピックが開催されることが決定した。これを受けて政府では、スポーツ行政を一元化するためのスポーツ庁創設に向けて動き出している。この事態を念頭に置いて本書を読むと、もしやノンフィクションなのではないかと戸惑いを覚えることだろう。
「書き始めたのは1年ほど前からで、私自身は2020年のオリンピックは東京にはならないと思っていました。しかし、ちょうど刊行のタイミングで東京に決定して、日本のスポーツ行政もざわざわと動き始めた。自分でも若干驚いています」
物語の主人公である沢居弘人は、柔道のオリンピック金メダリスト。引退したばかりの彼は、ある日“スポーツ省”から呼び出しを受け、高校生の長距離ランナーである仲島雄平のメンタルサポート役を命じられる。30年以上前に発足したスポーツ省では、社会主義国家のスポーツ強化策を手本とし、国家レベルで選手を育成してきた。特別強化指定選手“SA”には、国家予算から莫大な金が投入され、スポーツに専念できる環境が整えられるが、代わりに交友関係など生活のすべてを管理される。