“喪失”との向き合い方を描いた 芥川賞作家・伊藤たかみ氏に聞く
「僕自身、昔は葬式の精進落としで笑いながら酒を飲んだり寿司をつまんだりしている大人を見て、“不謹慎な!”なんて思っていたんです。でも、今はあれが喪失と折り合いをつけるのに必要なんだと自然に理解できるようになった。そういう部分を表現できていればうれしいですね」
著者は今、自分の形見づくりについて考えているという。
「主人公の太一同様、僕にも幼い息子がいますので、何か形見になるようなものを用意しておくべきだと思うんです。でも、物に執着しない性質で本ですらどんどん処分してしまうので、面白みのある物を何も持っていないんです(笑い)。読者の皆さんは、用意していますか? そうだ。次回作は、エンディングノートを題材にしてみようかな」
◇いとう・たかみ 1971年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。「助手席にて、グルグル・ダンスを踊って」で第32回文藝賞受賞。「八月の路上に捨てる」で第135回芥川賞を受賞。「ドライブイン蒲生」「海峡の南」「秋田さんの卵」など著書多数。