「九月、東京の路上で」加藤直樹著
関東大震災で集団的な朝鮮人リンチが東京の各地でおこなわれていたことは知られているが、中身や実態はよく知らないという人が多いだろう。本書はそこに丁寧な光を当てる。
錦糸町で、亀戸で、品川で、当時は草深い田舎だった世田谷で「朝鮮人が毒薬を井戸に流した」などの流言が飛び交い、リンチで負傷殺害された。のちに読売新聞の社主となる正力松太郎は、当時、特高警察のトップとしてこの流言を信じ、惨劇を拡大させながらも、その後は口をぬぐって他人事を決め込んだという。事実を淡々と列記しながらも、新大久保育ちの著者の悲しみと怒りが行間から伝わる。
(ころから 1800円)