「牛と土 福島、3・11その後。」眞並恭介著

公開日: 更新日:

 東日本大震災で引き起こされた原発事故で、警戒区域となった地には取り残された約3500頭もの牛がいた。餌を与えていた人間を失った牛は、牛舎につながれたまま餓死を遂げるか、放たれて野生化するしかない状況に追い込まれた。

 国は、運よく生き延びた牛が増えるのを恐れて殺処分命令を出したが、牛と共に暮らしてきた牛飼いたちのなかには、牛を生かす道を懸命に模索する者がいた。

 本書は、そうした牛飼いと、獣医や研究者たちの苦闘を丹念に取材した執念のノンフィクションだ。

 牛を生かそうと決意した牛飼いには、警戒区域への立ち入りを巡る行政との攻防や、餌を調達するためのコストとの闘いが待っていた。だが、奮闘を続けるうち、家畜でもない、ペットでもない、野生動物でもない被曝した牛には、研究対象としての存在価値、さらに荒れ果てた農地を保全させる価値があることが分かってくる。理不尽な選択を迫られた人々の真摯な姿勢が胸に迫る。

(集英社 1500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    周囲にバカにされても…アンガールズ山根が無理にテレビに出たがらない理由

  2. 2

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  3. 3

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  4. 4

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  5. 5

    田中圭が『悪者』で永野芽郁“二股不倫”騒動はおしまいか? 家族を裏切った重い代償

  1. 6

    のんが“改名騒動”以来11年ぶり民放ドラマ出演の背景…因縁の前事務所俳優とは共演NG懸念も

  2. 7

    ダウンタウン「サブスク配信」の打算と勝算……地上波テレビ“締め出し”からの逆転はあるか?

  3. 8

    1泊3000円! 新潟県燕市のゲーセン付き格安ホテル「公楽園」に息づく“昭和の遊び心”

  4. 9

    永野芽郁と橋本環奈…"元清純派"の2人でダメージが大きいのはどっち? 二股不倫とパワハラ&キス

  5. 10

    田中圭“まさかの二股"永野芽郁の裏切りにショック?…「第2の東出昌大」で払う不倫のツケ