トヨタ生産方式を読み誤り衰亡したIBM
IBMといえば、パソコン普及の原動力となり、マイクロソフト躍進のきっかけをつくったアメリカの巨大企業。しかし、2004年にパソコン事業を、2014年にはインテルサーバー事業を売却するなど、衰退が甚だしい。「倒れゆく巨象 IBMはなぜ凋落したのか」(ロバート・クリンジリー著 夏井幸子訳 祥伝社 1600円+税)では、この巨大企業がいかに道を見失い変質していったかを徹底検証。顧客と社員をないがしろにすることで地に落ちていくプロセスを明らかにしながら、企業の在り方について論じていく。
1980年代中ごろの絶頂期、IBMには管理者層が17段階もあったという。これは、同じく管理者層が何段階もある大企業や政府との取引に合わせた結果だった。管理者層は各決定事項のチェック機能を担うため、誤った決定がまかり通ることはなかった。しかしその一方で、その他の決定もスムーズには下されず、競合企業からもグローバル市場からも取り残されていった。徐々に方向性を見失ったIBMは、低価格商品で起死回生を狙うも失敗。1993年には、80億ドルという巨大な損失に直面する。こうして着手したのが、人員整理だ。当初は、製造工程の無駄の削減によって継続的な品質向上を実現する、トヨタ自動車の「リーン(lean=ぜい肉がとれた)生産方式」を土台にするはずだったという。ところがIBMは、これを自分たちの都合に合わせて似て非なるシステムにつくり変え、給料の高い熟練の正社員10万人の首切りを推し進めた。