薄れかけていた反核への思いを編む
合間に紹介される、原爆の爆発時の高熱で原形をとどめぬほどに変形した象牙の印鑑をはじめ、放射能汚染の状態が目で見て分かる「オートラジオグラフ(放射線像)」という手法で映し出された飯舘村で採取したカエデや軍手(表紙)、現代アートのように放射能汚染物質を詰め込んだフレコンバッグが沿道に並ぶ川内村の風景など、生々しい写真に改めて胸が突かれる。そうした中に挟み込まれた、特産品の「凍み大根」を作る飯舘村のおばあちゃんたちの震災前の笑顔が印象的だ。それはこの何げない日常がかけがえのない風景であることを改めて教えてくれる。
どこにでもあるような両脇に草が生い茂る一本道の写真が、エノラ・ゲイとボックス・カーが広島と長崎に向けて飛び立ったテニアン島の飛行場と分かると、途端に、その場所がとても意味のある、恐ろしい場所に思えてくる。
各メッセージ、そして一枚一枚の写真が、私たちの薄れかけていた反核への思いに、再び小さな火をともす。
(講談社 1500円+税)