「カフカの『城』他三篇」森泉岳士著
表題作をはじめ、漱石の「こころ」(先生と私)、ポーの「盗まれた手紙」、ドストエフスキーの「鰐」という不朽の名作4作をコミック化した大判作品集。名だたる文豪たちの絢爛たる文章を凝縮して、さらにエッセンスだけを抽出したかのように、それぞれの作品をわずか16ページという短編に仕立て直した、まさに文芸とコミックが融合した新たなアートともいうべき完成度だ。
「城」はカフカの死後に発表された未完の長編小説。主人公がある日、目覚めると虫になっていたという「変身」で知られるカフカの小説だけに、この作品も登場人物たちの会話からして読者を翻弄する。主人公である測量士のKは、伯爵家に召し抱えられることになり、ある雪深い村の丘の上に立つ城を目指すが、村長らと面会を重ねてもらちが明かず、城にたどり着くことができない。〈13ページにつづく〉
そればかりか、彼を雇ったクラム長官ともすれ違い、面会もかなわない。
そうこうするうちにKは、クラム長官の恋人だという給仕女と情を交わし、彼女を自分の宿屋に連れて帰る。
原作を読んだことがある人なら、こうしたわずかなセリフと絵だけで、なぜこうまでカフカの世界を忠実に具象化できるのか不思議に感じることだろう。