台湾が舞台の長編小説「流」を上梓 東山彰良氏に聞く
ノスタルジーに拍車をかけるのは、強烈な個性をもつ登場人物たちだ。
戦火を生き延びた強運で豪腕の祖父、ゴキブリを素手で仕留める祖母、お調子者の叔父に裏稼業のもうひとりの叔父。また、話に尾ヒレがついてデカくなる近所の爺さんたち、女たらしで町内の嫌われ者、素行不良の喧嘩詩人など、愛嬌のある人物も多い。
「僕が台湾にいたころ、町内にこういう人が実在したんです、決して人格者ではないモデルが(笑い)。そもそも中国人はB型気質が多く、基本的にはわがまま。歩み寄らないが、すり寄らない。互いに甘やかさない関係と人物像で描いていきました」
多彩な人間模様を織り交ぜ、恋と友情と成長を描く青春エンタメだが、それだけではない。何者かに祖父を惨殺され、復讐を誓う秋生が謎を追う緊迫感も。その根底には台湾がたどった悲しい歴史があり、分断された人々の心模様が緻密に描かれている。
「主人公のモデルは僕の父です。大学で教壇に立っていた父は、かつての戦地を訪ね、生き残った親族を探していましたからね。中国大陸生まれなので、血族や故郷に対する思いが人一倍強いのかもしれませんが。冒頭に引用した詩も、実は父が書いたもの。作家になったときから1冊は家族に捧げる本を書きたいと思っていて、それがこういう形になりました」