圧巻のモノクロ写真に、呆然とたたずむ
「The Songlines」竹沢うるま著
全352ページ中、28ページのモノクロ写真に魅せられ思わず手に取りレジに向かった。
タイトルや外見から内容は分からない。だが、オヤなんだろうと引き込まれ、帯の「旅行記の系譜に……」というコピーから先述のモノクロ写真にたどり着き、やっと写真家による紀行文だと知れる。
韜晦したデザイン、いや、「暗喩的な意匠」というべきか。ページを繰っていくにつれ、内容と装丁の「ズレ=距離感」が明らかになる。もちろんそれは仕組まれたものであり、本書の魅力でもある。
写真家の文章らしく、描写力=「解像度」はすこぶる高い。現場の熱気、湿気を帯びた風や音、匂いを描き出すさまは良質なドキュメンタリー映画のよう。一方、それらを包み込む装丁は、ごくごくシンプル。青い海面を捉えた写真を表紙全面に配置。そこに厚トレのカバーが掛かる。天方向から次第に消えゆくホワイトインキは、霞か霧か。タイトルと著者名はスミ1色。カバーと表紙は付かず離れず、所々にピントが合ったりボケたり。物語るのではなく「ほのめかす」、思惑通りの効果が見て取れる。