圧巻のモノクロ写真に、呆然とたたずむ
さて、やや立ち入るが印刷物で写真を再現する場合、小さな点の集合に変換する。これを「網点」と呼び、点同士の間隔は「線数」という単位で管理される。線数の多寡が細部の表情を左右する。件の28ページのモノクロ写真は、描写力と情報量が圧巻。濃密な空気感は著者の文章に相通ずる。単なるスミ1色刷りではない。スミ+グレーのダブルトーン。200線以上の高精細印刷。さらに1版、グロス・ニス。暗い部分ほど「テリ」が増す。
奥付を見ると「プリンティングディレクション」とある。印刷術は「再現術」。再現物(=写真)のハードルが高い場合に登場願う頼もしい専門職だ。高度な知識と豊富な経験がモノをいう。数えきれないほどの情報を一手に引き受け、最終的に印刷「物」へと昇華/定着させるエンジニア。本書は良い装丁の裏に職人あり、のまさに好例である。(小学館 2000円+税)
◇みやぎ・あずさ 工作舎アートディレクター。1964年、宮城県生まれ。東北大学文学部仏文科卒。1990年代から単行本、企業パンフレット、ポスター、CDジャケットなど幅広く手掛ける。