「京の暖簾と看板」竹本大亀著 渡部巌写真
看板も同様、富岡鉄斎の揮毫を用いた洋菓子の「桂月堂」や、北大路魯山人が自書自刻した味噌「八百三」、そして棟方志功の書を黒田辰秋が彫刻した「河井寛次郎記念館」など。芸術品さながらの看板が惜しげもなく掲げられる。
薬種の「雨森敬太郎薬房」の玄関の上に掲げられた立派な屋根付きの看板にいたっては、その一角だけまるで江戸時代に戻ったかのような錯覚さえ覚えてしまうほどだ。
また京菓子の店では、瓦屋根の上に灯籠看板、軒下には間口いっぱいに水引暖簾、そして玄関先の暖簾と、商家の店構えをしっかりと今に伝える店が多い。
なにしろ江戸の安政年間や享保年間創業などはざらで、干菓子の老舗「亀屋伊織」に至っては400年の歴史を持つという。その亀の絵が描かれた灯籠と半暖簾がなければ、変哲のない町家に見えるその店構えに、老舗ならではの矜持を感じる。
昆布を商う「松前屋」は、亀屋伊織のさらに上をいく創業600余年。宮中に仕え禁裏御所御用を拝命してきた同店の暖簾に墨書された「御用所」の文字は、その歴史を決して汚さぬよう自らを律しているかのようだ。