「北京メモリー」福井孝典著
主人公は、産読新聞北京特派員の伊江和夫。5年前から中国に赴任していた伊江だったが、ついに公安から「国家安全危害罪」や「国家政権転覆扇動罪」に抵触する恐れがあると呼び出しを受けた。あくまで記者活動の一環としての取材であり、やましいところはないと言い張ったものの、このままエスカレートするとスパイ容疑で摘発するという警告に一瞬背筋に冷たいものが走る。
というのも、在北京日本大使館1等書記官の長澤辰郎から情報収集の協力を求められ、金を受け取っていたからだ。
アメリカ大使館員や美人女性コンパニオン、党中央の政治局員である江思湘(チャン・スシャン)などに会い、次第に諜報機関の闇に巻き込まれていくのだが……。
紅道(共産党)と黒道(マフィア)が跋扈する中国で直面する命がけの情報戦を描いた社会派小説。沖縄在住の主人公の父・昭夫も登場させ、左派・右派双方の主張を盛り込んだ、まさに現代を描いた物語となっている。(作品社 1400円+税)