「月神」葉室麟著
元福岡藩士の月形潔は、明治13年、集治監(監獄)建設調査団の団長として函館へ向かう。航海中、その脳裏に浮かぶのは、維新前に藩による勤皇党弾圧で刑死した尊敬するいとこの洗蔵のことだった。万延元年、過激な尊皇思想が警戒され閑職に追いやられていた洗蔵は、全国で活発化する尊攘派の動きに呼応して内乱の兆しが切迫していると藩主の黒田長溥に参勤の中止を求めるが、黙殺される。さらに長溥に拝謁し、重ねて江戸参府の中止を求めたため、閉門謹慎を命じられてしまう。そんな洗蔵を慕い尊敬していた潔は、「月形家の者は夜明けとともに昇る陽を先導する月でなければならない」と語っていた彼の言葉が忘れられない。
信念を貫き戦った幕末の武士を描く歴史小説。
(角川春樹事務所 600円+税)