「黒田騒動」が舞台の歴史長編を上梓 葉室麟氏に聞く
これまで主に九州を舞台にした数々の歴史小説を描いてきた葉室麟氏の最新作、「鬼神の如く」(新潮社 1600円+税)が刊行された。異色のお家騒動「黒田騒動」を描いたものだが、史実的には詳しいことはわかっていないという。氏が描く、「黒田騒動」の内幕とは――。
時は3代将軍・徳川家光の治世。江戸から遠く離れた九州の地、豊後府内藩主・竹中采女正の元に黒田家家臣と称する男から「藩主に謀反の企てあり」との訴状が届いた。福岡藩主・黒田忠之と、老臣・栗山大膳の不仲は周知の事実。采女正は大膳の動きを探るため、間者を送り込む。今回の物語の主人公は探られる側の大膳だ。
「以前、第2の黒田騒動を題材にした『橘花抄』を描いたことがあり、いつかは本家の黒田騒動を描いてみたいとは思っていたんです。ただ、小説には書きにくい。日本三大騒動のひとつとして知られてはいるものの、伊達藩の騒動などと違って流血がない。しかも家臣が幕府に訴えたにもかかわらず、福岡藩召し上げは形だけで、訴えた家臣のその後の待遇も悪くないんです。要は騒動のわりにはドラマがない(笑い)。それがあるとき資料を読んでいて、お家騒動に絡んで、いわば検事役ともいえる采女正だけが切腹して死んだことを知りました。そこで黒田騒動の関係者の枠を広げ、始まりと結論しか分かっていない黒田騒動の空白の“経緯”を私なりに紡いでみました」