「室町耽美抄 花鏡」海道龍一朗氏
「しかし、室町には経済や社会の仕組みで現代に通じる部分も多く、今なお受け継がれる文化や芸術のスタート地点も、義満の時代であるものが非常に多い。私自身、小説家としてずっと彼の生涯を描きたいと思っていましたが、まずは義満がいたからこそ花開いた室町文化の担い手たるアーティストの生きざまを知ってもらい、読者の室町への興味につながればと考えました」
本作の主人公たちは武将ではないが、真理を求めて道を突き詰める求道の生涯は壮絶を極める。研鑽の日々に身を投じる真剣勝負の迫力は、圧巻の一言だ。
「例えば、多くの人が可愛らしいとんち坊主のイメージを抱く一休。しかしその生涯は、俗世の権力と結びついた禅宗の在り方を拒否し、自殺を企て、極貧の生活の中で修行を続けた過酷なものだったことに驚かれる人も多いと思いますよ」
歴史小説のエアポケットとなっているこの時代と、そこに生きた人々。本作を読めば、室町時代をもっと知りたくなるはずだ。
(講談社 1800円+税)