「『いじめ』をめぐる物語」荻原浩・小田雅久仁・越谷オサム・辻村深月・中島さなえ著
学校や職場やネット環境の中など、社会全体に蔓延する「いじめ」。閉じられた世界の中で、被害者になるか、加害者になるか、目撃者という名の残酷な容認者になるかの三択になってしまい、現在進行形で苦しんでいる人も少なくない。本書は、そんな「いじめ」をテーマに5人の作家が書いた短編を収めた競作アンソロジーだ。
収録されているのは、女性教師がクラス内のいじめ問題を解決しようと行動を起こす荻原浩の「サークルゲーム」、いじめを苦に自殺した友人を助けられなかった思いを抱える男を描いた小田雅久仁の「明滅」、いじめに苦しむ少年の前に現れた悪魔が見せる光景を描いた越谷オサムの「20センチ先には」、小学生時代に微妙な関係だった2人が大人になって再会する辻村深月の「早穂とゆかり」、歌劇団トップを目指す2人の女性の愛憎関係を描いた中島さなえの「メントール」の5編。いじめについて、さまざまな場面や立場から考える機会を与えてくれる。(朝日新聞出版 1400円+税)