「人間臨終考」森達也氏
「僕が実際に会った信者は心優しい穏やかな人ばかりです。なぜ彼らがあれほどの事件を起こしたのか、組織の病理という問題を考えていけば、当然ナチスに行き当たるわけです」
アイヒマンについては最近、哲学者アンナ・ハーレントを描いた映画で話題になった。
アンナは学者として、アイヒマンは狂信者ではなく凡庸な人物だったと結論したのだが、それは社会に受け入れられなかった。それが日本社会のオウム問題のとらえ方と似ているという。
「組織に入ると主語が〈僕〉とか〈私〉という一人称ではなくなって、〈我々〉になっちゃう。そうなると当然、述語も変わる。日本は世界一ベストセラーが生まれやすい国で、みんなが読むから自分も読む。そういう傾向がとても強い国ですから、組織の間違いを起こしやすい」
それは組織の末端にいる者だけではなく、組織のトップにいた者も同じなのだ。
「あのアイヒマンでさえ、私は命令に従っただけだと。じゃあ、責任はヒトラーにあるのかといったら、ヒトラーはホロコーストを一切指示していない。同じことがオウム真理教にも言えて、麻原彰晃はサリンを撒けとは言っていないんですよ。周囲が上の者の気持ちを忖度して行動し、上の者もそれを褒めなくてはいけないと考える。上も下も組織の中ではお互いに忖度し合い、〈私〉がなくなるんですね。人間は群れに馴染みやすい生き物ですから」