いま国民は核心を突く人を欲していないのか
「ジャーナリストという仕事」斎藤貴男著(岩波ジュニア新書)
本書は、もともと若者に向けて、ジャーナリストという仕事を紹介するために書かれたものだ。だが、私は、この本を広く国民に読んで欲しいと思う。それは、本書で著者が、ジャーナリズムとは何かという問題に、真正面から取り組んでいること。そして、もう一つは、そのジャーナリズムが、いま存亡の危機に立たされているという現実を知って欲しいからだ。
多くの国民が、ジャーナリズムの危機自体を認識していない。例えば、ヤフーニュースの意識調査で、高市総務大臣が、政治的な公平性を欠く放送を繰り返した放送局に対して電波停止を命じる可能性に言及したことに関して、「メディアの萎縮をもたらす」と考えるかを聞いたところ、半分近い国民が「萎縮はない」と答えているのだ。私は萎縮どころか、服従に近い現実があると思うのだが、本書では、そうした状況も具体的事例に基づいて説明している。
著者は、自身をジャーナリストのはしくれと謙遜しているが、私は日本のトップクラスのジャーナリストだと思う。膨大な資料を読み込み、当事者にインタビューし、深く考えて、問題の本質に切り込む。しかも、ジャーナリストの本領は権力のチェックだと確信しているから、権力に対して一切の妥協を許さない。権力者と酒食を共にし、そこで得た情報を垂れ流しにする大手メディアの記者とは、決定的にスタンスが違うのだ。だから、私はこれまで著者の発する情報を、確かなものとして受け取ってきた。