持たない・少ない・快適な暮らし
ゴミ屋敷や汚部屋、「片付けられない女」が話題になるなか、モノを捨てる「断捨離」が流行になって久しい。世界各国にグルメな店があふれ、高層ビルが次々に建っていく街の様子にふと不安も感じる。もっとシンプルで質素な暮らしに憧れる人も多いのではないか。小さなことからでも、新しい何かを始めるヒントになる本を紹介しよう。
日本を脱出し、異なる景色と言語を見聞きしながら異国のホテルで過ごす時間の心地よさ。日常から隔絶されているからこそ味わえる快感といえるが、それを日常でも実行しようとする人物がいる。
「最小限主義。」(KKベストセラーズ 1200円+税)の著者・沼畑直樹は、写真撮影の仕事でクロアチアのコルチュラ島を訪れ、トランク一つで泊まったホテルで、ちょっと前に知った「ミニマリズム」という言葉を思い出す。そして、日本に帰ったら、持ち物を最小限にしよう! と決意する。
部屋を片付け、テーブルの上に何も置かない。料理したら食器はすぐに洗って拭いてしまう。毎日、水拭きをしてホコリをためない。いろいろな国の料理では胃腸が疲れる、ということで和食に絞る。昼寝している子どものために、余計な音をたてないようにすると、すり足になり動作もゆっくりになった。
SNSで広がる一方の人間関係も「小さく」して、自然の中で、親しい友と過ごすアウトドアの時間を増やす。
3400万円の新築高層マンションを長期ローンで買うのをキャンセルし、2100万円の中古マンションにした。この選択は妻が言いだしたというタイミングも興味深い。吉祥寺という土地のおかげで、暮らし方も変わる。要するに、家も収入もクルマも、最小限でいい。“大きいことはいいことだ!”というコマーシャルが1970年代にあったけれど、「大きい」より「小さい」ほうが幸せだというのがミニマリズムなのである。
仕方なく我慢して耐えての「小さい」ではなく、「自分で決める」のがミソ。豆をひきドリップしたコーヒーを、何もないテーブルで飲むすがすがしさ。空と夕焼けも、豊かさを感じる秘訣だ。
この最小限主義は、国のあり方にも応用できる。領土拡大主義でアジア隣国との関係を悪化させた歴史に向き合えば、最小限主義は今後の日本のビジョンになるだろう。人口減少を嘆く必要もなくなる。小さい国でも、経済成長しなくても、いいじゃないか。1億人維持をめざす首相にも教えてあげたくなる。