「鬼降る森」髙山文彦著
山高く谷深い故郷・高千穂風土記
大宅賞作家が、故郷の宮崎県高千穂を旅しながら思索を重ねた名著。
かつて山頭火が「分け入っても分け入っても青い山」と詠んだほど、高千穂の山は高く、谷は深い。天孫降臨神話と鬼伝説が同居するこの地で、毎年11月半ばから翌年2月まで、毎週どこかの村で夜神楽が行われる。人々が神楽と共に楽しみにしているのが夜這いだった。かつて日向を旅した坂口安吾が高千穂について記した一文には、往復36里もの山道を歩き隣村の女のもとに通う男の話が出てくるという。
中学生の自分に夜這いの手順を語って聞かせた祖母や、猪や鹿、山鳩や野兎などを届けてくれた猟師のトクさんなど、そこに生きる人々を描きながら混とんと矛盾の里・高千穂を描いた風土記。(小学館 620円+税)