著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「蓮の数式」遠田潤子著

公開日: 更新日:

 不妊治療をしている主婦がいる。安西千穂35歳。大学教授の夫も義母も、子供が生まれないことを彼女の責任であるかのように責めてくる。千穂はそういう日々にいる。本書は、自分たちの都合しか考えない安西家から自由を求めてヒロインが逃げる話である。道行きの相手は高山透。算数障害(ディスカリキュリア)の透にそろばん塾の講師である千穂が計算の仕方を教えるうちに親しくなり、心が寄り添っていく。

 もうひとつは、ハス農家の新藤賢治が大西麗を捜す話だ。親の愛に恵まれなかった少年、大西麗を賢治夫婦は可愛がっていたのだが、12年前に死んでしまう。その大西麗をテレビの中で見て驚愕。生きているのなら会いたい、と賢治は捜し始める。12年前の事件について説明を始めると長くなりすぎるので、ここでは割愛。謎の多い事件が昔にあったと書くにとどめておく。千穂の逃避行と、賢治の探索。この2つの話が絡み合いながら進んでいく。それがどう絡むのかが本書のキモなので、ここには書かない。千穂の夫は追ってくるし、透を追ってくる女の子もいて、事態はどんどん複雑になっていく。なんだか熱い物語だ。

 遠田潤子は、2009年に日本ファンタジーノベル大賞を受賞した「月桃夜」でデビュー。12年には「アンチェルの蝶」で大藪春彦賞の候補。ただいま売り出し中の作家だが、まずは本書をお読みいただきたい。(中央公論新社 1700円+税)


【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇