「蓮の数式」遠田潤子著
不妊治療をしている主婦がいる。安西千穂35歳。大学教授の夫も義母も、子供が生まれないことを彼女の責任であるかのように責めてくる。千穂はそういう日々にいる。本書は、自分たちの都合しか考えない安西家から自由を求めてヒロインが逃げる話である。道行きの相手は高山透。算数障害(ディスカリキュリア)の透にそろばん塾の講師である千穂が計算の仕方を教えるうちに親しくなり、心が寄り添っていく。
もうひとつは、ハス農家の新藤賢治が大西麗を捜す話だ。親の愛に恵まれなかった少年、大西麗を賢治夫婦は可愛がっていたのだが、12年前に死んでしまう。その大西麗をテレビの中で見て驚愕。生きているのなら会いたい、と賢治は捜し始める。12年前の事件について説明を始めると長くなりすぎるので、ここでは割愛。謎の多い事件が昔にあったと書くにとどめておく。千穂の逃避行と、賢治の探索。この2つの話が絡み合いながら進んでいく。それがどう絡むのかが本書のキモなので、ここには書かない。千穂の夫は追ってくるし、透を追ってくる女の子もいて、事態はどんどん複雑になっていく。なんだか熱い物語だ。
遠田潤子は、2009年に日本ファンタジーノベル大賞を受賞した「月桃夜」でデビュー。12年には「アンチェルの蝶」で大藪春彦賞の候補。ただいま売り出し中の作家だが、まずは本書をお読みいただきたい。(中央公論新社 1700円+税)