GWに読みたい最新警察小説特集

公開日: 更新日:

「サッド・フィッシュ」佐藤青南著

 仕事やら雑事やらを一瞬忘れて本の世界に没頭するなら、警察小説が断然いい。あちこちに散らばる伏線を拾い集めながら、主人公と共に事件解決の旅に出る。道中、世知辛い世間の風にもみくちゃにされた人や、どこかのだれかに似ている人の喜怒哀楽にも出合うだろう。今回は、それぞれ味わい深い警察小説5冊をご紹介!

 大麻取締法違反で逮捕され活動自粛期間を経て音楽活動を再開するはずだった人気歌手が、死体で発見された。レコーディングスタジオという密室での、覚醒剤乱用による脳出血死という見立てにより、当初は事件性がないと思われていたが、関係者に聞き取りをするうち、捜査官・楯岡絵麻は違和感を覚える。これは殺人ではないのか。“エンマ様”とも呼ばれる絵麻の冴えた推理が始動し始める。

 本書は、相手のしぐさからその心理を巧みに見抜く美人捜査官・楯岡絵麻が、相棒の西野と共にさまざまな事件を解決する楯岡絵麻シリーズの最新刊。今回、絵麻が挑むのは、前述のミュージシャンの死、ご近所とのトラブル中に起きた老女の転倒死、集団リンチによる女子中学生殺人事件、絵麻のかつての恋人から持ち込まれたテロ組織潜入の4つ。人の心理を鮮やかに見抜く絵麻の手腕が楽しめる。
(宝島社 660円+税)

「スローダンサー」富樫倫太郎著

 杉並中央署生活安全課に設置されている「何でも相談室」は、どこの課も扱わないような相談事や厄介事が持ち込まれる部署。署内でも役に立たない人材の行き場とされているため、通称0係と呼ばれている。そんな0係に所属するキャリア刑事・小早川冬彦と、その相棒である万年巡査部長・寺田高虎のもとに、親友の焼身自殺に疑問を持つ若い女性が訪れた。

 亡くなったのは、体は女性・心は男性という性同一性障害に悩んでいた人物で、普段は男性として生きていたが性転換手術を受ける直前に夜の公園で焼身自殺を遂げていた。過去に自殺未遂歴があったこと、遺書が残されていたことから自殺とされていたが、調べてみると次々と不思議な点が浮かび上がってきた……。

 周囲の空気を読まずに推理に突き進む、小早川の奔放なキャラクターが光る、人気シリーズ第4弾。
(祥伝社 630円+税)

「死者の木霊」内田康夫著

 長野県飯田にあるダム湖で、男の下腹部と思われるバラバラ死体が見つかった。通報を受けたのは、飯田警察署捜査係の竹村岩男巡査部長。現場近くまで男を車に乗せて段ボール箱を運んだというタクシー運転手の証言をきっかけに、容疑者と被害者の身元が割れ、親族間の借金トラブルを原因とする殺人事件という線で捜査が終結に向かうかと思われた。しかし、そこに不自然さを感じた竹村は異を唱える。そして真犯人は別にいるのではないかという仮説を、さまざまな証言の断片を積み重ねて根気強く検証していくのだが……。

 ミステリー界の第一人者である著者の原点ともいえるデビュー作の新装版。長野から、東京、青森、鳥羽と、関係する日本各地を巡りながら、地道な捜査でトリックの謎を解き明かしていく主人公が魅力的に描かれている。
(講談社 750円+税)

「県警出動」麻野涼著

 群馬県のダム湖で発見された県会議員の水死体。首にロープが絡まり衣服を着けたまま発見されたことから、湖の近くの木で首を吊って死のうとした直後、木の枝が折れてダムに落下し溺死したのではないかと推測されたが、自殺なのか他殺なのか、なかなか真相が見えない。

 捜査にあたったのは、県警富岡署の着たきり刑事と呼ばれるベテランの財津善一と、東大卒の新米刑事・塩野忠のコンビ。事件を探るうち、被害者が議員になる前に高校教師をしていた当時の教え子3人が捜査線上に浮かんできた。

 真相を探るべく、ふたりは被害者の過去を丹念に調べ始めるのだが……。

 ページをめくるたびに複雑に絡み合ったパズルのような謎が一つ一つ解けていく。まさに、警察小説の王道を行く手法がじっくり楽しめる。
(徳間書店 660円+税)

「桜田門のさくらちゃん」加藤実秋著

 主人公・久米川さくらは、警視庁総務部業務管理課に勤める事務職員。定時退庁をモットーに、お気楽に仕事をこなしているが、実は刑事部捜査第1課のエリート刑事・元加治が持ち込む怪事件の数々を独特のひらめきで解決へと導く捜査の女神でもあった。今回取り組むのは、動機も状況も揃っているのに証拠が全く見つからない殺人事件、捜査の進展していない資産家強盗殺人事件、署内展示物破損の容疑者にさくらがなってしまった事件、銀座ホステス殺害事件、容疑者に庁内で監禁される事件の5つ。

 女子事務職員と若手エリート刑事という秘密のコンビが次々と難事件を解決していくのだが、若い女性向けのライトノベル風な文体で書かれていることもあり、警察小説としては異色。

 学園ドラマのような署内の雰囲気に昭和生まれの読者は卒倒必至かも。
(実業之日本社 556円+税)

【連載】ザッツエンターテインメント

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  2. 2

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  3. 3

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  4. 4

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  5. 5

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  1. 6

    おすぎの次はマツコ? 視聴者からは以前から指摘も…「膝に座らされて」フジ元アナ長谷川豊氏の恨み節

  2. 7

    大阪万博を追いかけるジャーナリストが一刀両断「アホな連中が仕切るからおかしなことになっている」

  3. 8

    NHK新朝ドラ「あんぱん」第5回での“タイトル回収”に視聴者歓喜! 橋本環奈「おむすび」は何回目だった?

  4. 9

    歌い続けてくれた事実に感激して初めて泣いた

  5. 10

    フジ第三者委が踏み込んだ“日枝天皇”と安倍元首相の蜜月関係…国葬特番の現場からも「編成権侵害」の声が