食品に安さを求める消費者側にも問題
「激安食品が30年後の日本を滅ぼす!」河岸宏和著(辰巳出版 1300円+税)
食品加工の現場を知り尽くした著者による、外食やスーパーの食品に潜むカラクリをまとめた一冊。本書を読むと、もう外食をしたくなくなり、スーパーに並ぶ数々の食品に対しても疑惑の目を持ってしまい、もはや今の日本では生きていられないのか……と暗澹たる気持ちになる。というか、著者の書く内容がいちいちえげつないのである。たとえば激安焼き肉店の項目にはこんな表記がある。「成型肉」についての説明だ。
〈成型肉の材料となる、端肉や内臓肉は、ミンチ状にして、肉に成型していきますが、その際は「結着剤」(リン酸塩)を使って、固める必要があります。また成型肉は、そのままでは食感も悪く、まずいのひと言です。そこで、「植物性たんぱく」などのたんぱく質系の食品添加物を混ぜて、やわらかくし、食べられる状態にします〉
他にも、スーパーで鶏肉の賞味期限が近づくとラベルを貼り替えて延長したり、それでも売れ残った場合は、タレをつけて「若鶏むね肉味付ペッパー焼肉用」などと再加工して販売するなどの実態も指摘。
さらには、ビール飲みにはよく分かるのだが、グラスは薄ければ薄いほどおいしいもの。だが、飲食店では厚いグラスがよく出る。その理由は、食器洗い機で洗う時に割れづらいことや、運ぶ時にも厚い方が強度があるからなのだという。オペレーションと味のどちらを取るかの二択で、味は捨てたということだろう。
こうした容赦のない記述が続くのだが、ある程度の救いはあり、「良い店」の見分け方も適宜本書ではまぶしている。たとえば、回転寿司の場合は、「あら汁」があるかどうかを見よ、と指摘する。というのも、寿司には使えないものの、良いダシが出て、さらに身もおいしい「あら」は、実際に店舗で魚をおろさない限りは存在しないもの。だからこそ、こうした店は自ら良い食材を調達する努力もしているおいしい店だ、といった指摘だ。
本書は食品業界の問題点を指摘するものの、飲食店のやり方については一概に批判はできないだろう。それは消費者が安いものを求めるあまり、味や安全は二の次となってしまったが故の現状だからだ。結局この状態を作りあげたのは我々消費者であるという気持ちを持つ必要もある。
というわけで、今晩は「日替わり」のメニューを充実させ、その時々の安い食材をおいしく仕上げる行きつけのアイリッシュパブへ行こうと思う。★★(選者・中川淳一郎)