「靖国と千鳥ケ淵」伊藤智永著
陸軍省高級副官・美山要蔵の評伝。美山は近年、A級戦犯合祀の黒幕と叩かれた人物。その理由は、東条英機元首相から戦後の靖国のあり方について密命を授けられたことと、靖国神社を所管する陸軍省の高級副官の職責として臨時大招魂祭を挙行し、戦後の合祀再開への布石を打ったとされるからだ。
しかし、著者は綿密な取材から、戦後の靖国合祀について手続きの仕組みを整えたのは美山だったが、A級戦犯合祀が実際に行われるに至った決断や意図については美山の周知するところではないという。後年、美山は靖国と対決し千鳥ケ淵墓苑の創設と維持に残りの人生をささげた。美山の幼少期からその人生をたどり、A級戦犯合祀とは何かを考える。(講談社 1000円+税)