「エースナンバー」須賀しのぶ著
弱小公立校の三ツ木高校野球部を舞台にした連作長編である。まず冒頭では、三ツ木高校に赴任した若杉が野球部の監督を任命される。この27歳の生物教師は野球の素人なのですべてがわからないことだらけ。手さぐりで生徒たちと接していく。
次に登場するのは新聞記者の泉千納。彼女は新人なので甲子園のアルプススタンドを駆け上がったり下りたりして関係者のコメントを集めまわる。デスクから求められる記事は必ずしも自分の書きたいものとは一致せず、どうしてと不満が渦巻いている。美人は得だよなあと言う他社の記者にも腹が立つし、けっして楽な仕事ではない。
3編を収録した連作集だが、このように、高校野球をまず外側から描き、そして最後にもっとも長いパートに突入していく。ここに登場するのは高校球児で、ようやく彼らが主役となる。野球部を辞めた笛吹龍馬は本当に復部するのか、この一点に向かって物語は進んでいく。その間にさまざまなドラマがある。高校の部活としての野球部はどうあるべきか、という問題がまずある。勝つということと、教育ということ。この2つが両立しないとき、どちらを優先させるべきなのか、という永遠の課題が背景にあるのだ。
前作「雲は湧き、光あふれて」の続編とも言うべき小説だが、独立した作品として読むことが可能なので、前作を未読の方も安心して手に取られたい。(集英社 540円+税)