著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「エースナンバー」須賀しのぶ著

公開日: 更新日:

 弱小公立校の三ツ木高校野球部を舞台にした連作長編である。まず冒頭では、三ツ木高校に赴任した若杉が野球部の監督を任命される。この27歳の生物教師は野球の素人なのですべてがわからないことだらけ。手さぐりで生徒たちと接していく。

 次に登場するのは新聞記者の泉千納。彼女は新人なので甲子園のアルプススタンドを駆け上がったり下りたりして関係者のコメントを集めまわる。デスクから求められる記事は必ずしも自分の書きたいものとは一致せず、どうしてと不満が渦巻いている。美人は得だよなあと言う他社の記者にも腹が立つし、けっして楽な仕事ではない。

 3編を収録した連作集だが、このように、高校野球をまず外側から描き、そして最後にもっとも長いパートに突入していく。ここに登場するのは高校球児で、ようやく彼らが主役となる。野球部を辞めた笛吹龍馬は本当に復部するのか、この一点に向かって物語は進んでいく。その間にさまざまなドラマがある。高校の部活としての野球部はどうあるべきか、という問題がまずある。勝つということと、教育ということ。この2つが両立しないとき、どちらを優先させるべきなのか、という永遠の課題が背景にあるのだ。

 前作「雲は湧き、光あふれて」の続編とも言うべき小説だが、独立した作品として読むことが可能なので、前作を未読の方も安心して手に取られたい。(集英社 540円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 2

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  3. 3

    参院選で自民が目論む「石原伸晃外し」…東京選挙区の“目玉候補”に菊川怜、NPO女性代表の名前

  4. 4

    NiziU再始動の最大戦略は「ビジュ変」…大幅バージョンアップの“逆輸入”和製K-POPで韓国ブレークなるか?

  5. 5

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  1. 6

    サザン桑田佳祐の食道がん闘病秘話と今も語り継がれる「いとしのユウコ」伝説

  2. 7

    我が専大松戸の新1年生は「面白い素材」がゴロゴロ、チームの停滞ムードに光明が差した

  3. 8

    逆風フジテレビゆえ小泉今日子「続・続・最後から二番目の恋」に集まる期待…厳しい船出か、3度目のブームか

  4. 9

    新沼謙治さんが語り尽くした「鳩」へのこだわり「夢は広々とした土地で飼って暮らすこと」

  5. 10

    石橋貴明のセクハラ疑惑は「夕やけニャンニャン」時代からの筋金入り!中居正広氏との「フジ類似事案」