誰もが抱える「死」という人生の〆切
「 〆切本」左右社編集部編左右社(2300円+税)
タイトルを見た瞬間に背筋が凍りつき、ページをめくるごとに全身から脂汗が噴き出してきました。「〆切」。ああ、なんて恐ろしく、そしてありがたい言葉でしょう。
夏目漱石、川端康成、吉行淳之介、星新一、村上春樹、長谷川町子、岡崎京子……。この本には、明治から現在にいたる90人の名だたる書き手が、それぞれの「〆切との格闘」を描いたエッセーや手紙、マンガなどが収められています。
〆切は、作家や漫画家にとって、もっとも身近で切実な問題。どれもリアリティーと真剣味と躍動感にあふれた名文(名作)ばかりです。島崎藤村は、パリから編集部に宛てたはがきに「甚だ面目なき思いを致して居ります。又自身もどかしく思って居ります。種々なる事情を御察し下されお許しを願ふの外ありません」と書きました。これぞ平身低頭。私たちもいつか使ってみましょう。いやまあ、使うような事態にならないほうがいいんですけど。
そう、〆切に怯えながら生きているのは、物書きだけではありません。学生には宿題や入試という〆切があり、どんな仕事にも納期や決算といった〆切があります。卒業や定年も、〆切の一種といえるでしょう。
作家たちが〆切に苦しみ、なんだかんだと言い訳をする話だけではないところが、この本の面白さであり〆切の奥深さ。取り立てる側の編集者がつづった本音や、〆切を必ず守ることをモットーとしている作家の主張もあわせて読むことで、〆切が持つ多彩な表情を感じることができます。
実は誰もが抱えているのが「死」という人生の〆切。いつ来るかわからない上に、決して延長はできないのが、この〆切の厄介なところ。本書には、「〆切」を通じて、人生をどう過ごすかを考えさせてくれる効能もあります。いろんな〆切に勇気やエネルギーをもらいつつ、頑張って生きていきましょう。