トランプ大統領で日米関係はどうなる その答えが書かれている
「アメリカを見れば世界がわかる」池上彰著/PHP研究所
アメリカの大統領選挙で、民主党のヒラリー候補の私的メールによる国家機密漏洩容疑でFBIが捜査を開始したことによって、共和党のトランプ候補が当選する可能性が皆無とは言えなくなってきた。トランプ大統領が誕生したとき、日米関係はどうなるのであろうか。この質問にわかりやすく答えてくれるのが本書だ。
〈トランプはアジアのことなんて考えていません。「アメリカ・ファースト」のトランプは、「米軍が他国を守るために、なぜ費用を負担する必要があるのか?」と考えています。「日本が在日米軍の駐留費用の負担を増やさなければ、日米安保条約を見直し、米軍を日本から撤退させる」と発言しました。/ただ、実際に米軍が撤退したらどうなるかをトランプは知りません。日本は「思いやり予算」で、在日米軍で働く日本人従業員の給料を支払っています。もし米軍が日本から撤退し、たとえばグアムに移転すれば、基地で働く従業員の給料をアメリカ政府が支払うことになります。アメリカの負担は大きく増えるのです。〉
確かに客観的には池上氏の指摘の通りと思う。しかし、トランプの凄さは、客観性や実証性を軽視もしくは無視して、自らが欲するように世界を理解する反知性主義にある。トランプ政権が成立すれば、日米同盟の性格は抜本的に変化するであろう。
もっともそうなれば、安倍晋三首相がロシアのプーチン大統領と、ロシアが歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことに合意した場合、両島を非軍事化して日米安保条約の適用除外にすることも可能になる。また、沖縄から米海兵隊が撤退することになれば、普天間飛行場を閉鎖し、辺野古新基地建設を中止することも可能になる。トランプ大統領になった方が、日本が抱える内政と外交の懸案の処理が容易になるかもしれない。
いずれにせよ、トランプ現象によって、世界的規模で「アメリカに頼っていて大丈夫なのか」という不安が高まったことは間違いない。各国がどうやって生き残っていけるかを真剣に模索する時代が近未来にやってきそうだ。日本の外務官僚が時代の変化に適応できるか心配だ。
★★★(選者・佐藤優)