明るい介護目指す本特集
「ペコロスのいつか母ちゃんにありがとう」岡野雄一著
老老介護や介護離職など、ネガティブなイメージがつきまとう介護という現実。自分が介護する側、そしてされる側になったときのことを考えると、暗澹たる気持ちになってくる。しかし、どうせ逃れられないなら、せめて明るい介護を目指したいものだ。今回は、母を介護した男性漫画家のユニークなエッセーから、老人ホームにおけるイケナイ恋愛模様まで、ほのぼのと笑える介護関連本を紹介。
第42回日本漫画家協会賞の優秀賞を受賞し、映画化もされた「ペコロスの母に会いに行く」の著者によるエッセー。漫画では、認知症と診断され施設で暮らす当時89歳の母との日々が描かれていたが、今回はそれ以前の自宅介護の5年間を中心に、切なくも笑いの絶えなかった毎日がつづられている。
最初に異変を感じたのは、母がトイレを流さなくなったことだという。しかも、トイレットペーパーを使わない。顔にウンコがついていたこともあり、驚いて指摘すると「ウチはそこまでボケとらん!」などと言う。風呂に入れようと服を脱がせたり下着を用意するときは、「スケベ!」と叫ばれたというから大変だ。
どのエピソードも介護する側の苦労がしのばれるが、むかし自分を叱った母そのままの口調でものを言うため、状況はさておき、おかしくて笑ってしまった、と著者。介護を続けるには肩の力を抜き、のんきに構えることが大切と教えてくれるエッセーだ。(小学館 1100円+税)
「笑って付き合う認知症」榎本睦郎著
認知症専門医が病気の仕組みから治療法までを解説しながら、認知症と上手に付き合う方法も伝授する。
家庭でよい介護を続けるためには、デイサービスを積極的に利用するのがいい。“自分が楽をするようで罪悪感を覚える”と感じる家族もいるが、決まった時間に起床して身支度をするなどの行動は、認知症患者にとってもよい刺激となる。さらに、家族が休息を取ることで、心に余裕が生まれて患者の問題行動にも有効な対応ができるようになる。
例えば認知症には、「物盗られ妄想」や、自宅を違う場所と勘違いする「帰宅願望」などが表れる。このとき、イライラして間違いを正したりすると、患者は混乱して行動が悪化しかねない。一方、妄想を否定せず、むしろ付き合うような対応ができれば、患者は落ち着きを取り戻す。これには、介護する側の心に余裕が必要だ。家族の休息環境を整えることこそ、明るい介護の第一歩だ。(新潮社 1200円+税)
「恍惚から、老惚へ」三和坂怜著
老人ホームは出会いの場。ひとつの建物の中で大勢の男と女が暮らすのだから、色恋沙汰が生まれないわけがない。本書には、長年にわたり老人ホームの施設長を務めてきた著者が目の当たりにした、数々のロマンスが赤裸々につづられている。
あるとき入所してきたのは、むかしタイピストをしていたという細木さん。70代前半だがきちんとスーツを着こなす高学歴美女だった。途端に色めき立つ男性陣。中でも積極的だったのが80代の石井さんで、お菓子のプレゼントを携えて細木さんのもとを訪れ、「やらせてくれ!」と懇願したのだという。著者は石井さんに厳重注意しようとしたが、止めたのは何と細木さん。「女は卒業したつもりだったけれど、考え直さないとね……」と意味深につぶやいたそうだ。
勝負下着で男を惑わす80歳の小悪魔、外出届を出してモーテルにしけこむカップルなど、衰え知らずのご長寿たちの姿は頼もしくもある。(幻冬舎 1200円+税)
「ハードロック介護!」コバヤシ著
1日15万プレビューという人気ブログの書籍化。バンドマンを経て介護士となった著者が、介護施設利用者とのドタバタの日々を4コマ漫画で紹介するとともに、“3K”と言われ、ネガティブな報道が多い介護士の仕事の面白さも伝えている。
お年寄りと思って油断していると、ギャグを飛ばされて笑わせられることもしばしばだという。入浴介助中に「お湯かげんいかがですか」と聞けば、「いいダシが出とるでぇ」と言われるのは介護士“あるある”なのだそう。しかも「どんな味ですか」と尋ねると、「出がらしや」などと切り返されるからユニークだ。
あるお年寄りに笑ってもらうために、川を泳いで通勤していると冗談を言ったのは1年前のこと。今では認知症が進んでしまったが、突然「今日も泳いで帰るのか?」と聞かれて、驚くやらうれしいやらの著者。ハードな仕事であることは間違いないが、明るく楽しい介護の現場もあるのだ。(ワニブックス 1000円+税)
「ボケた家族の愛しかた」丸尾多重子著、長尾和宏監修、北川なつ絵
家族を介護する人や介護職に就く人の交流の場としてNPO法人を主宰する著者が、介護の“こんなとき、どうすりゃいいの?”に答える本書。7つの実話をもとに、優しいタッチの漫画で介護者の不安に寄り添っていく。
家族の介護は、介護される人との関係によって悩みも異なる。例えば、母親の介護だ。いつも優しく、しっかり者だった母親が認知症になり、自分のことを他人と間違う。これは子供にとって耐えがたいものだ。しかし、母親は大切な子供だからこそ介護で迷惑をかけるのがつらく、自分の子供であった事実を忘れて防衛しているのだと著者は説く。
また、介護をする男性には、熱心になり過ぎないようにと注意する。仕事一筋だった男性は、介護でもよい結果を目指そうとする。しかし、本当の介護とは、相手がしてもらいたいことをとことん考えること。結果ばかりに目を向けず、母や父や妻の心に寄り添うことが大切とアドバイスしている。(高橋書店 1100円+税)