「OLD DOGS 愛しき老犬たちとの日々」ジーン・ウェインガーテン著、ミカエル・S・ウィリアムゾン写真、山本やよい訳
年老いた犬たちのポートレートに、彼ら彼女らと飼い主とのエピソードを添えて紹介するフォトエッセー。
本書の誕生のきっかけとなったのは、著者の愛犬イエロー・ラブラドルレトリバーのハリーだった。亡くなる少し前のある日、ハリーは散歩の途中で立ち止まり、見知らぬ犬が公園で飼い主とフリスビーに興じる姿に見入っていたという。
その時、ハリーは13歳で、もう散歩は以前とは異なり、排泄の義務を果たすための実用本位のもので、周囲のことにはすっかり無関心になっていたのに、よその犬がかつて自分がそうしていたようにフリスビーで遊ぶ姿を、飽きることなく見つめていたそうだ。
これまで8匹の犬と暮らし、6匹が気品と威厳をたたえて年を取り、運命を甘受するかのように死を迎えるのを見てきた著者は、「犬も年を取るにつれて時間の経過を認識し、死という運命までは理解できなくとも、体力の衰えという無慈悲な現実だけは、間違いなく理解している」という。
飼い主を追い抜いて老いていく犬たちは、老いとともに深い感謝と無限の信頼を飼い主に示すようになり、一方で予想もしなかったひょうきんさも見せ、安らぎに包まれているように見えるという。
ハリーに続いて登場するのは、彼の晩年の散歩仲間だったピットブルのハニー(10歳)だ。母親は野良犬を連れて帰ってきた息子にある儀式を強制するが、ハニーはその儀式を見事にクリアして、野良犬から飼い犬へと昇格したのだ。
その他、人工授精のために行われた獣医の「テクニック」が忘れられず、飼い主の家を脱走して3キロもの道をものともせず獣医の元に走った武勇伝を持つジャックラッセルテリアのスタンレー(16歳)、飼い主だった看護師のナオミの死後、娘のベウラに引き取られ、母を亡くしたベウラの心も癒やし続けてきたペキニーズのB.B(13歳)、放射線治療の影響で黒い毛に覆われていた顔は灰色に変わってしまったが、獣医の言葉に反して悪性のがんを乗り越えたボガ(10歳)、若いころは熊狩りが得意だったが、今は耳も聞こえず腰痛もあるので一日中座っているサム(16歳)、かつては数え切れないほど家を脱走したが、今は飼い主が外に連れ出そうとすると、リードをくわえて家の中に戻ってしまうブレイズ(11歳)など、64匹の老犬たちの物語がつづられる。
彼ら彼女たちの写真からは、飼い主と過ごした濃厚な時間の積み重ねが伝わってくる。そして、飼い主と愛犬とのさまざまなエピソードが犬と暮らす楽しさを教えてくれる。愛犬家はもちろん、犬との暮らしを考えている人にもお薦め。(原書房 1600円+税)