「回想 私の手塚治虫」峯島正行著

公開日: 更新日:

 著者は大人向け漫画雑誌の草分け的存在「週刊漫画サンデー」の初代編集長。同誌創刊時の昭和30年代には子供漫画と大人漫画とが截然と分かれていた。子供向け漫画の巨匠として名声赫々たる手塚治虫を大人漫画の世界に引っ張り込んだのが他ならぬ著者だ。本書は、あまり語られることのなかった手塚の大人漫画について詳細に描いたもの。

 大人漫画において手塚は、子供漫画では描けないエロス、ペシミズム、ニヒリズムなどを盛り込み、さらには戦争を描いた。そうして出来上がったのが、「漫画サンデー」連載の長編SF「人間ども集まれ!」他の作品だ。こうした試みは、当時、子供漫画に行き詰まりを覚えていた手塚に新たな活路を見いださせ、やがて「アドルフに告ぐ」や「ブッダ」という名作につながることが、内容の紹介と当時の手塚の心情と共に跡づけられていく。

 本書には、著者が交遊した近藤日出造や横山隆一などの漫画家たちのエピソードも紹介されており、貴重な昭和漫画史ともなっている。(山川出版社 2000円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ

  2. 2

    フジテレビ「第三者委員会報告」に中居正広氏は戦々恐々か…相手女性との“同意の有無”は?

  3. 3

    大阪万博開幕まで2週間、パビリオン未完成で“見切り発車”へ…現場作業員が「絶対間に合わない」と断言

  4. 4

    兵庫県・斎藤元彦知事を追い詰めるTBS「報道特集」本気ジャーナリズムの真骨頂

  5. 5

    歌手・中孝介が銭湯で「やった」こと…不同意性行容疑で現行犯逮捕

  1. 6

    大友康平「HOUND DOG」45周年ライブで観客からヤジ! 同い年の仲良しサザン桑田佳祐と比較されがちなワケ

  2. 7

    冬ドラマを彩った女優たち…広瀬すず「別格の美しさ」、吉岡里帆「ほほ笑みの女優」、小芝風花「ジャポニズム女優」

  3. 8

    佐々木朗希の足を引っ張りかねない捕手問題…正妻スミスにはメジャー「ワーストクラス」の数字ずらり

  4. 9

    やなせたかし氏が「アンパンマン」で残した“遺産400億円”の行方

  5. 10

    別居から4年…宮沢りえが離婚発表「新たな気持ちで前進」