「銀の猫」朝井まかて著
実母がつくった借金を抱える出戻り25歳のお咲は、3年前から口入れ屋「鳩屋」の世話で「介抱人」として働いている。介抱人とは、身内に代わって年寄りの介抱を助ける奉公人のことで、長寿の町・江戸では重宝される仕事だ。
ある日、咲に湯島天神下の料理屋・㐂重のご隠居の世話の声がかかった。行ってみると、隠居部屋は暗く、そして臭い。家の者は右半身が動かない隠居の㐂作をきちんと世話していなかった。かんしゃくを起こす㐂作に、咲は辛抱強く言葉を聞き、食事も食べやすいように工夫をする。やがて気力を取り戻した㐂作は、世話をないがしろにした倅夫婦を奉行に訴えると言い出した。(「銀の猫」)
道楽三昧の隠居に振り回される「隠居道楽」など、切実な江戸の介護事情を背景にした8編の短編連作集。(文藝春秋 1600円+税)