わが意を得たり 3人の若手論客が著名人をメッタ斬り
「現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史」北田暁大、栗原裕一郎、後藤和智著/イーストプレス
テレビから討論番組がどんどん減っている。「朝まで生テレビ!」は生き残っているものの、全国ネットの討論番組は消滅に近い状況だ。一つの問題を深く掘り下げ、多様な見方を紹介するというテレビが本来持つべき重要な機能が衰退し、国民のニーズは、健康やグルメといった生活に密着した身近な情報に移ってしまったのだ。私は、その現状に寂しい気持ちになっていたのだが、書籍の世界では、まだ討論番組が生きていた。
本書は、北田暁大、栗原裕一郎、後藤和智という3人の若手論客が、論壇を飾る著名人をメッタ斬りにするというとても刺激的な鼎談になっている。しかも「テレビでやったら、ひと悶着起きるだろうな」と思わせるほど言葉が激しいというか、言いたい放題の内容だ。
例えば、「古市憲寿は何であんなに偉そうなのか」ということがきちんと語られている。実は同じ疑問を私もずっと持っていたのだが、そんな発言をすると袋叩きに遭うのが目に見えていたので、ずっと口をつぐんできた。その意味で本書には痛快な批評があふれている。
さらに、本書で一番わが意を得たりと感じたのは、日本の左派が経済音痴であることを批判している部分だ。著者のひとりである北田暁大東京大学大学院教授は、40人程度の経済学者、社会学者らを集めた「リベラル懇話会」を主宰してアベノミクスの良質な部分の批判的継承と経済成長に関する再分配の方法を民主党に提言したという。その基本姿勢はリフレ派に近いものだった。実は、私も他大学の教員と一緒に同じような提言を民主党に送ったことがある。しかし、もちろん民主党は、そうした提言を完全無視した。
安倍1強といわれる政治状況は、日本のリベラル勢力が、世界のリベラルから見たら当然の政策――例えば、金融緩和を理解せず、権力の全否定に終始していることに起因している。それをズバリと指摘する本書は、気分がよい。ただ、本書が批評する論客や著作は、かなりマニアックなものもある。正直、私も半分くらいしか知らない。だから、本書はある程度勉強している人向けだ。本書を完全に理解できたら、それだけで教養人の証しだと思う。
★★(選者・森永卓郎)