著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「君が夏を走らせる」瀬尾まいこ著

公開日: 更新日:

 16歳の大田少年が、1歳10カ月の女の子の面倒を見る話である。中武先輩から頼まれたのだ。先輩は高校を1年で中退し、しばらくふらふらしていたが、結婚して子供が生まれてからは建築資材を扱う会社で真面目に働いている。

 その先輩の奥さんが切迫早産で1カ月入院することになり、先輩が仕事に行っている朝9時から夕方まで、赤ん坊の世話を頼まれるのである。

「どうして俺に? 俺っすよ俺?」と大田少年は言うが、おまえしか頼む相手がいないんだと頭を下げられると断れない。高校もそろそろ夏休みだし、もっとも満足に学校にも行っていないからそんなことは関係ないのだが、こうして金髪ピアスの不良少年のひと夏が始まっていく。

 子供の世話なんてしたことがないし、しかも相手は1歳10カ月。「ぶんぶー」とか、「いしいしー」とか、「ジュジュジュー」としか言わないので、何を求めているのか大田少年にはまったくわからない。何が気に入らないのかずっと泣きやまないし、振り回される一方だ。しかしそのうちに、付き合い方の要領が少しずつわかってくるにつれて、小さな手が、その喜ぶ顔が、ぶつかってくる体が、とてもいとしいものに思えてくる。勉強が嫌いで、学校が嫌いで、ただ怠惰に日々を過ごしていた自分を、だからちょっとイヤになる。

 自分はまだ16歳だ。人生を諦めるには早すぎる。しかし何をすればいいんだろう。大田少年は必死に考え始める。(新潮社 1500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  2. 2

    周囲にバカにされても…アンガールズ山根が無理にテレビに出たがらない理由

  3. 3

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  4. 4

    田中圭が『悪者』で永野芽郁“二股不倫”騒動はおしまいか? 家族を裏切った重い代償

  5. 5

    中森明菜が16年ぶりライブ復活! “昭和最高の歌姫”がSNSに飛び交う「別人説」を一蹴する日

  1. 6

    永野芽郁「二股不倫報道」の波紋…ベッキー&唐田えりかと同じ道をたどってしまうのか?

  2. 7

    レベル、人気の低下著しい国内男子ツアーの情けなさ…注目の前澤杯で女子プロの引き立て役に

  3. 8

    芳根京子《昭和新婚ラブコメ》はトップクラスの高評価!「話題性」「考察」なしの“スローなドラマ”が人気の背景

  4. 9

    永野芽郁“二股不倫”疑惑「母親」を理由に苦しい釈明…田中圭とベッタリ写真で清純派路線に限界

  5. 10

    大阪万博会場は緊急避難時にパニック必至! 致命的デザイン欠陥で露呈した危機管理の脆弱さ