「君が夏を走らせる」瀬尾まいこ著
16歳の大田少年が、1歳10カ月の女の子の面倒を見る話である。中武先輩から頼まれたのだ。先輩は高校を1年で中退し、しばらくふらふらしていたが、結婚して子供が生まれてからは建築資材を扱う会社で真面目に働いている。
その先輩の奥さんが切迫早産で1カ月入院することになり、先輩が仕事に行っている朝9時から夕方まで、赤ん坊の世話を頼まれるのである。
「どうして俺に? 俺っすよ俺?」と大田少年は言うが、おまえしか頼む相手がいないんだと頭を下げられると断れない。高校もそろそろ夏休みだし、もっとも満足に学校にも行っていないからそんなことは関係ないのだが、こうして金髪ピアスの不良少年のひと夏が始まっていく。
子供の世話なんてしたことがないし、しかも相手は1歳10カ月。「ぶんぶー」とか、「いしいしー」とか、「ジュジュジュー」としか言わないので、何を求めているのか大田少年にはまったくわからない。何が気に入らないのかずっと泣きやまないし、振り回される一方だ。しかしそのうちに、付き合い方の要領が少しずつわかってくるにつれて、小さな手が、その喜ぶ顔が、ぶつかってくる体が、とてもいとしいものに思えてくる。勉強が嫌いで、学校が嫌いで、ただ怠惰に日々を過ごしていた自分を、だからちょっとイヤになる。
自分はまだ16歳だ。人生を諦めるには早すぎる。しかし何をすればいいんだろう。大田少年は必死に考え始める。(新潮社 1500円+税)