成田空港開港阻止に殉じた学生たちの「いま」

公開日: 更新日:

 海外旅行で成田空港を使うたび、三里塚闘争を思い出して後ろめたい思いがこみ上げてくる……。そんな意味のことを、かつて野坂昭如がどこかに書いていた。いま、この「後ろめたさ」の意味をわかる者はどのぐらいいるだろう。来週末封切りの代島治彦監督「三里塚のイカロス」はそんな感慨をうながすドキュメンタリーだ。

 登場するのは成田空港の開港阻止闘争に殉じたかつての若者たち。その全員が既に60歳を過ぎ、運命に導かれるように、三里塚を離れても農民として暮らしている。実はこの作品、3年前に公開された「三里塚に生きる」(大津幸四郎・代島治彦共同監督)の続編で、「生きる」が反対同盟の農民たちの「いま」を追ったのに対し、こちらは「援農」として支援闘争に参加した元新左翼学生たちの「いま」をたどるのである。

 登場するのは中核派の元慶大生、第4インターの元立命館大生に元高校生、そして支援した農家に嫁入りしたML派の元お茶女大生に元東京学芸大生……。学生運動は三里塚闘争で初めて「農」と出合い、「土」にまみれた。題名の「イカロス」は太陽に近づき過ぎて翼をもがれ墜落死したギリシャ神話の主人公の名前だが、むしろ彼らは「農」と一つになることでバブル時代の堕落を逃れたとみることもできるだろう。

 鈴木一誌ほか著「小川プロダクション『三里塚の夏』を観る――映画から読み解く成田闘争」(太田出版 3333円+税)はそんな可能性も示唆する、映画史上に名高いドキュメンタリー作品のDVD付き論集。

 <生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    僕がプロ野球歴代3位「年間147打点」を叩き出した舞台裏…満塁打率6割、走者なしだと.225

  2. 2

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  3. 3

    “玉の輿”大江麻理子アナに嫉妬の嵐「バラエティーに専念を」

  4. 4

    巨人「先発6番目」争いが若手5人で熾烈!抜け出すのは恐らく…“魔改造コーチ”も太鼓判

  5. 5

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  1. 6

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 7

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  3. 8

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  4. 9

    大江麻理子アナはテレ東辞めても経済的にはへっちゃら?「夫婦で資産100億円」の超セレブ生活

  5. 10

    裏金のキーマンに「出てくるな」と旧安倍派幹部が“脅し鬼電”…参考人招致ドタキャンに自民内部からも異論噴出